サイエンス

「がん細胞だけを殺す新型の免疫細胞」をCRISPR-Cas9で開発することに成功


厚生労働省の統計によると、1歳から94歳までの死因でトップ3に悪性新生物(がん)がランクインしており、「いかにがんを克服するか」という目標を掲げて、世界各国で医療研究が精力的に行われています。そんな中、CRISPR-Cas9を応用したゲノム編集技術で「がん細胞だけを識別して殺す免疫細胞」が開発されたと報告されました。

Genome-wide CRISPR–Cas9 screening reveals ubiquitous T cell cancer targeting via the monomorphic MHC class I-related protein MR1 | Nature Immunology
https://www.nature.com/articles/s41590-019-0578-8


Discovery of new T-cell raises prospect of ‘universal’ cancer therapy - News - Cardiff University
https://www.cardiff.ac.uk/news/view/1749599-discovery-of-new-t-cell-raises-prospect-of-universal-cancer-therapy

Breakthrough discovery could lead to ‘one-size-fits-all’ cancer treatment | The Independent
https://www.independent.co.uk/news/health/cancer-treatment-therapy-t-cell-universal-tumor-cardiff-university-a9292716.html


免疫には大きく分けて「自然免疫」と「獲得免疫」の2つがあります。自然免疫は体内に侵入した異物を感知して排除しようというもので、例えば白血球の一種であるマクロファージが細菌やウイルスといった抗原を食べる作用がこれに当たります。それに対して獲得免疫は、抗原の一部から情報を得ることによって「異物を選択的に見つけ出して殺すようになる」という仕組みです。

この獲得免疫システムを構築する細胞の一種であるT細胞には、T細胞受容体(TCR)と呼ばれる分子が細胞膜上に存在します。また、人間の細胞と体液にはHLA(ヒト白血球抗原)というものがあり、T細胞はTCRでこのHLAを認識することで自己の細胞かそうでないかを識別したり、抗原に関わる情報をやりとりしたりしています。

by Blausen Medical

このT細胞をつかってがんを治療する「CAR-T細胞療法」は、患者のT細胞を体外に取り出してから、がん細胞の目印を見分けるように遺伝子を改変して培養し、再び体内に戻してがん細胞をやっつけるという免疫療法です。ただし、CAR-T細胞療法は、従来の方法では限られた種類のがんだけにしか効果がないのが難点といわれています。

カーディフ大学の研究者は、「ほとんどの種類のがん細胞を識別可能なTCR」を備えたT細胞を、CRISPR-Cas9を応用して作り出すことに成功したと報告しました。このT細胞は、健康な細胞を無視しながら、肺・皮膚・血液・結腸・乳・骨・前立腺・卵巣・腎臓・子宮のがん細胞を殺すことができたことが実験室で示されたとのこと。また、ヒトの免疫系とヒトのがん細胞を持つマウスにこのT細胞を注入したところ、従来のCAR-T細胞療法に匹敵する効果が示されたと研究チームは報告しています。


また、メラノーマの患者から採取されて新しいTCRを発現するように改変したT細胞は、患者のがん細胞だけではなく、他の患者のがん細胞にも効果があったことが実験で示されたとのこと。この実験結果は、患者ごとにT細胞を書き換えるのではなく、「普遍的にがんに効果のあるT細胞」を用意できる可能性を示唆しています。

研究の主執筆者でカーディフ大学医学部のアンドリュー・セウェル教授は「このように広範ながん特異性を持つTCRを見つけることは非常に珍しく、これにより普遍的ながん治療への見通しが高まります」と述べています。一方で、セウェル教授はさらなる安全性の試験を行い、新しいTCRを備えたT細胞が確実にがん細胞のみを認識することを示す必要があるとしました。

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in サイエンス, Posted by log1i_yk

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