サイエンス

赤外光で体内を照らし埋没型のがん腫瘍を非侵襲的に観察できる深部イメージング技術が誕生


スタンフォード大学の化学者が、がん患者の体内に存在する埋没型の腫瘍を明るく照らすことができる新しい深部イメージング技術を開発しました。この技術を用いることで、非侵襲的に体内の腫瘍の経過を、従来よりも鮮明に観察できるようになる可能性があります。

Stanford chemist develop ‘infrared vision’ for cancer immunotherapy
https://news.stanford.edu/press-releases/2019/10/03/infrared-vision-immunotherapy/

2019年9月30日号の学術誌・Nature Biotechnologyに掲載された最新の研究で、免疫療法に対するがん患者の反応を調べ、治療後の進捗を追跡調査するために有用な新しい深部イメージング技術が発表されました。

この技術を開発したのはスタンフォード大学の応用物理学者であるHongjie Dai教授が率いる研究チーム。同氏は「この技術はエルビウム元素を含むナノ粒子に依存しています。エルビウムは赤外線で発光するという独自の特性を化学者に高く評価されている元素で、いわゆる希土類元素の1種です」と語っています。

by Casey Horner

エルビウムを含むナノ粒子を化学的に設計されたコーティングで覆うことで、ナノ粒子が血流に溶けるのを助け、毒性を減らし体内からより早く排出することを促進しているとのこと。また、ナノ粒子のコーティングは、細胞上の特定のたんぱく質を見つけて付着する役に立つそうで、がん細胞などに対して「誘導ミサイルのように作用する」と説明されています。

研究ではエルビウムを含むナノ粒子を摂取したマウスを低出力のLEDライトで照らすことで、マウスの体内の血管が発光し、標的組織(腫瘍)または個々の細胞を従来のイメージング技術よりもはるかに高い解像度で観察することに成功。同研究の第一著者であり、Dai教授の研究室の博士研究員であるYeteng Zhong氏は、「我々の開発した深部イメージング技術は、イメージングの深さ、分子の特異性と多重度、そして空間的・時間的解像度の組み合わせにおいて従来の手法では達成できないレベルにあります」と語っています。


以下のムービーでは、実際に生きたマウスにナノ粒子を摂取させ、脳血管を赤外光で照らす様子が見られます。マウスの脳の血管が青緑色に発光しており、同研究に参加したZhuoran Ma氏は「我々のアプローチならば、無傷のマウスの脳を見ることができます。従来の手法ではマウスが無傷のままの場合、頭皮しか見ることができませんでした」と語っています。

Mouse brain illuminated by infrared vision - YouTube


研究チームはこの深部イメージング技術を用いて免疫系を活性化する抗がん剤に対して脆弱なマウスの腫瘍を特定することに成功。そのため、既存の手法では必要となる病変の一部を採取して調べる「生検」なしで、薬剤に反応する患部を特定することが可能な「非侵襲的な方法」を提供可能となります。加えて、エルビウムナノ粒子を用いることで、がん治療後の患者の経過を観察し、腫瘍が薬剤に反応しているか、腫瘍が縮小しているかを継続的に観察できるとのこと。

研究チームはこの深部イメージング技術により、外科医が腫瘍をより正確に切除したり、生物学者や医学研究者が細胞内の基本的なプロセスを研究したりすることも支援できると述べています。

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in サイエンス,   動画, Posted by logu_ii

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