サイエンス

「ゴミはリサイクルしよう」という一般市民への呼びかけが逆に持続可能な廃棄物管理を難しくしているという指摘


子どもの頃から「ゴミはしっかり分別してリサイクルしよう」と教えられてきたという人は多く、地球のゴミ問題を解決するにはリサイクルこそが最重要だと考えている人もいるはず。ところが、アメリカのバージニア大学で廃棄物管理のイニシアチブについて研究するミカエラ・バーネット氏らは、「リサイクルを重視する公衆へのメッセージが、かえって廃棄物を管理する取り組みを混乱させてしまった」と主張しています。

Recycling bias and reduction neglect | Nature Sustainability
https://doi.org/10.1038/s41893-023-01185-7


Decades of public messages about recycling in the US have crowded out more sustainable ways to manage waste
https://theconversation.com/decades-of-public-messages-about-recycling-in-the-us-have-crowded-out-more-sustainable-ways-to-manage-waste-208924

「人間が出すほとんどのゴミはリサイクルできる」と考えている人もいますが、実際にはそれほど簡単な話ではありません。バーネット氏らが一例として挙げている「テイクアウトのコーヒーを入れる紙カップ」は、一見すると紙製であるように見えますが、ほとんどの紙カップは液漏れを防ぐためにプラスチックの裏地が用いられています。これを消費者が紙の部分とプラスチックに分離することは困難であり、リサイクルには向いていないとのこと。


多くの専門家らは人間が管理不可能かつ持続不可能な量の廃棄物を生成していることを認めており、プラスチックごみから放出されるマイクロプラスチックは世界の隅々まで汚染しています。すでにマイクロプラスチックが人間の血液中から発見された事例が報告されているほか、市販されている食塩の90%にマイクロプラスチックが含まれていることも明らかとなっています。

2023年5月に発表された論文では、マイクロプラスチックは単にプラスチックを廃棄した時のみ生じるというわけではなく、プラスチックをリサイクルする過程でも大量に放出されていることが示されました。

これらの廃棄物を取り巻く問題を解決する上で最も有効なのはリサイクルではなく、そもそもの廃棄物を出さないことです。以下の図は、アメリカ環境保護庁などが採用している「廃棄物管理階層」と呼ばれるフレームワークで、上から順に環境に好ましい廃棄物の解決策とされています。一番上の「資源の削減&再利用」はよく耳にする「リデュース・リユース・リサイクル」のうち「リデュース・リユース」に該当し、「リサイクル&堆肥化」はその次に環境に優しい解決策となっています。実は、廃棄物そのものを削減する「リデュース・リユース」と、廃棄物を再利用する「リサイクル」の間には環境面での優先順位に差があるのです。


確かに、リサイクルは廃棄物を焼却炉で燃やしたり、埋め立て地に埋めたり、廃棄物を燃焼させてエネルギーを取り出したりするよりは環境に優しい解決策です。しかし、資源をリサイクルすることにはエネルギーや追加の資源が必要となるため、リデュースやリユースによって廃棄物そのものの発生を削減するよりは、環境に与える悪影響が大きいとバーネット氏らは指摘しています。

バーネット氏らは廃棄物を管理する戦略の有効性についてのアンケート調査を実施し、人々の間にどれほど廃棄物管理の正しい認識が根付いているのかを調べました。その結果、「廃棄物の問題に対処する最も効果的な方法」について尋ねた自由記述式の質問では、ほとんどの人がリサイクルを最も持続可能な解決策だと認識しており、人々の間に「リサイクルのバイアス」が存在していることが判明。また、廃棄物管理階層の組み合わせを正しくランク付けできた人は全体の78%に過ぎず、リサイクルを訴える公衆へのメッセージが、廃棄物管理について人々を混乱させてしまっている可能性が示唆されました。

一方、「リデュース・リユース・リサイクル」の優先順位をランク付けする質問では、優先順位を間違える被験者が46%まで減少し、「廃棄の防止」と「リサイクル」の二択問題では80%以上が廃棄そのものを防ぐ方が環境に優しいと認識できたとのことです。

また、家庭で一般的に出るゴミを「リサイクルできるもの」と「リサイクルできないもの」に分けてもらう試験では、多くの人が「ビニール袋(58%)」「使い捨てコーヒーカップ(46%)」「電球(26%)」など、リサイクルが難しいゴミをリサイクルできると回答しました。リサイクルできないものをリサイクルゴミとして捨ててしまうことで、リサイクル業者が再分別するコストが必要となったり、まとめてリサイクル不可と判断されてリサイクル可能なゴミまで埋め立てられたりしてしまう危険性があるとのこと。

その一方で、「プラスチックの生産が始まってからこれまでにリサイクルされた割合はどの程度だと思うか?」という質問に対する回答の平均は「約25%」と、回答者の多くはプラスチックごみの大半がリサイクルされていないと認識していることも判明。広く引用されている見積もりでは「約9%」と今回の回答よりも少ないものの、リサイクルがそれほどうまくいかないことも人々は認識していることがうかがえます。


バーネット氏らは、既存の廃棄物への取り組みに関するメッセージは、廃棄物の発生源として「消費者」を挙げており、責任の多くが消費者側にあるように見せていると指摘。しかし、実際には廃棄物を生み出す責任の多くは製品を作り出す企業側にあり、製品の回収システムを整えたり、リサイクルしやすい設計にしたりすることで、廃棄物問題により効果的に対処できるとのこと。

バーネット氏らは、「廃棄物により汚染が世界的に深刻化する中で、企業は使い捨て製品の量を減らすどころか、消費者に責任があると非難し続けています。私たちの見解では、リサイクルは過剰生産、過剰消費に対する免罪符にはなりません」と述べました。

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in サイエンス, Posted by log1h_ik

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