メモ

再利用・リサイクルが前提で新しく物を作るのは最終手段という「循環経済」で良好な環境とより多くの雇用が生まれる


あらゆる物が大量に安く生産される大量生産社会では、物を大切にする傾向が薄れて、古くなるたびに新しい物へと次々に買い換える大量消費行動がつきものです。しかし、大量生産・大量消費の社会は、資源を大量に使い大量のゴミを生み出すため、エコロジーにはほど遠いという問題を抱えています。そんな大量生産・大量消費をあらため、再利用やリサイクルをフル活用し「壊れたら修理する」のが大原則で、再利用、リサイクル、修理が不可能なときに初めて新しく物を作ることが認められるというエコロジカルな経済社会が提案され、資源の枯渇や環境破壊の問題だけでなく、新たな雇用が創出されるというメリットがあると指摘されています。

The circular economy : Nature News & Comment
http://www.nature.com/news/the-circular-economy-1.19594

現代社会は大量生産・大量消費が前提の経済構造をとっており、あらゆる物が作られては捨てられています。大量生産・大量消費社会では資源の枯渇やゴミの大量発生の問題が避けられず、自然界には存在しなかったプラスチックの廃棄物の3分の1が収集されることなく放出されたり、二酸化炭素が排出されて地球温暖化が起こったりと環境破壊が大きな問題としてつきまとっています。


このような大量生産・大量消費の経済の代わりに「circular economy(循環経済)」という概念が生み出されています。これはその名の通り、物が作られて消費される産業生態系のループとして循環するように計画的に経済活動を行うシステムを指しています。

循環経済では、「再利用できるものは再利用する」「再利用できないものはリサイクルする」「壊れたら直す」「直せないものだけ再生産が許される」という原則の下で経済活動が行われます。循環経済では新たに資源を消費して物を作ることは最小限に制限されるので、ヨーロッパの研究によれば各国は温室効果ガスの排出を70%抑制することができゴミの排出を激減させるとともに、雇用は4%増えると試算されています。


なぜ働き口が増えるのかというと、大量生産が機械化によるたまものなのに対して、循環経済では物を選別したり、きれいにしたり、修理したりする必要があり、これらの作業は経験や技術が求められる「人」による作業だから。消費財だけでなく建築物も同じように再利用や補修が要求され、やはり新しく建物を建てる場合よりも継続して人の手が必要となるため雇用が生まれます。

これは循環経済のループを示した図。青色が「使用(消費)」、茶色が「製造」、うす紫色が「流通」の過程を示しており、それらが一つのループとなってつながっています。特に、青色の消費ではループ内に「REUSE(再利用)」「REPAIR(修理)」「REMANUFACTURE(再生)」というルートがあることが大きな特徴で、極力、製造・流通の経路に乗ることなく消費活動を行うことが環境負荷を抑えることができる秘訣です。


循環経済のコンセプトは40年前に誕生しました。1970年代初頭のエネルギー価格上昇とオイルショックに伴う不況、高い失業率を経験して、エネルギーのために資源ではなく「人」を投入するというアイデアがもとになっています。アイデアを出した一人のWalter R.Stahel氏は建築家で、ヨーロッパに古くからある建築物が長く使われることで新しく作る場合よりもはるかに少ないエネルギーで済むことから着想を得たそうです。

循環経済が成り立つ世界では、物の製造方法が変わるだけでなく「所有」の概念も大きく変わると考えられています。大量生産・大量消費社会では、そこそこの性能の物をいかに安く生産するかが重要なのに対して、はるかに長い期間での償却を目指す循環経済では物の価値は相対的に高くなります。また、物を長期間使うにあたって維持管理費としてのメンテナンスコストも合わさるのでなおさらです。このため、循環経済下では物は「所有するもの」ではなく「共有するもの」という形態への大きな変化が起こると予想できます。

物の使い方を変え、所有・共有の形態をも変えることになる循環経済のエッセンスは、すでに実験的に導入され始めているとのこと。例えば、フランス・パリでは街の至る所に小型の電気自動車(EV)を駐車して充電できるスペースが確保されEVをレンタルできる都市型のカーシェアプロジェクト「Autolib」が登場しており、また、NASAは使い捨てのロケットから再利用可能で何度も打ち上げることのできるロケットを宇宙開発ベンチャーSpaceXと共同開発しています。


環境問題の点でも雇用創出の点でもメリットがある循環経済ですが、世界中の国が協力して導入するにあたって課題は山積みだと考えられています。まず、再利用やリサイクルに活用できる技術や情報は一部の大企業に集中しており、循環経済で主役を担う各地方の中小企業や商店などの小規模なコミュニティにどうやって浸透させるかという問題があります。大量生産・大量消費社会で企業規模を拡大させた大企業が、地方や個人への活動拠点のシフトを要求する循環経済を手放しに認めることには期待できず、法律や税制を含めた政府主導の政策による誘導が不可欠と言えます。

また、経済活動を測る指標を新たに作り出す必要があります。GDPのような大量生産・大量消費の世界での経済活動を測る指標の代わりに、重量当たりの価値創出や重量当たりの労働力など、循環経済にあった経済指標を考え出して活用することが求められそうです。

しかし、循環経済への最大の障害は、消費者の理解を得られるかにあるということ。大量生産・大量消費社会と違って循環経済では物の利用には節度が求められることから、循環経済では消費者の果たす役割の大きさや担っている責任の大きさを教育を通じて理解してもらいコンセンサスを得る努力が求められます。また経済活動は一国内で完結するものではなく各国とのつながりの中で成り立つことから、世界各国が一丸となって循環経済に取り組む必要がありますが、国際的な競争力の指標をも変え得る循環経済への大移行に対しては、意見を一致させることが最大の難点となりそうです。

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in メモ, Posted by darkhorse_log

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