サイエンス

新型コロナの後遺症の影響は「計り知れないほど大きい」と研究者が語る


イギリスの有力な研究グループが、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に関する研究を科学的に分析した結果、COVID-19の後遺症である「ロングCOVID」の負担は患者にとって「計り知れないほど大きい」と語っています。

The immunology of long COVID | Nature Reviews Immunology
https://www.nature.com/articles/s41577-023-00904-7

Prof Danny Altmann: the burden of long COVID | RNZ
https://www.rnz.co.nz/national/programmes/saturday/audio/2018899512/prof-danny-altmann-the-burden-of-long-covid


COVID-19の長期的な影響について分析したのは、イギリスの名門大学であるインペリアル・カレッジ・ロンドンで免疫学の教授を務めるダニー・アルトマン氏ら。研究チームによると、COVID-19を発症した人の10%が持続的な後遺症を患っており、世界中で最大4億人がロングCOVIDに苦しめられており、これを支援する必要があると述べました。

ロングCOVIDの症状は多岐にわたり、息切れ・倦怠感・喘鳴・運動後の倦怠感・ブレインフォグなどの症状が特に知られています。しかし、実際には他にも約200種類の症状がロングCOVIDに関連しており、語彙力の低下・不眠症・皮膚の発疹・新しいアレルギーの発症などが存在する模様。

この研究では、ロングCOVIDの患者は心臓・肺・脳・神経系に損傷の兆候が見られ、免疫系に病気の兆候が見られることが判明しています。アルトマン教授は「この研究における私の仕事は、確かなデータ、確かな証拠、確かな数字を本当に長い間にわたって厳しく検討し、役立つと思われるある種の合意をまとめようとすることでした」と語りました。


アルトマン教授らによる研究は、大規模な縦断的調査データを分析し、ロングCOVIDの影響を調べるというコホート研究です。研究の被験者となった患者には、数年間にわたってMRI検査や健康診断、認知機能検査などが行われていたため、COVID-19感染前と感染後のデータを比較することができています。

アルトマン教授は研究結果を、「最も恐ろしい答えが得られました。被験者の脳の一部はCOVID-19の影響で縮小しており、認知機能テストのスコアもCOVID-19の影響で下がっていました。この結果は人々をとても怖がらせてしまうかもしれませんが、これが我々が現時点で理解している事実です」と説明しました。


また、ロングCOVIDに関する症状としては自己免疫疾患(体の免疫系が体自身のタンパク質を攻撃する場合)、炎症、血液凝固異常、臓器損傷、ウイルス残留(体内にウイルスの貯蔵庫が残る)、血液凝固異常、ガス交換と血液への酸素供給困難など、さまざまなものが挙げられています。これについて、アルトマン教授は「これらの症状が相互に排他的である必要はありません」と語りました。

ウイルスは体内の多くの組織、特にウイルスが付着するACE2を持つ組織に潜行的に残留する可能性があると研究グループは考えているそうで、「つまり、心臓・肺・肝臓・嗅葉に侵入し、そこに損傷を与える可能性がります。これらはMRI検査結果から目で確認できるものであり、これだけがすべてというわけではないはずです」と述べました。


ロングCOVIDの後遺症のひとつとして知られる「運動後の倦怠感」(PEM)は、少量の運動の後でさえ生じるそうです。PEMはほんの少し体を動かしただけでも発生する疲労感で、回復には驚くほど時間がかかる模様。また、PEMには「PEMを経験したことがない人には事の重大さを理解してもらうことが難しい」という問題もあります。

また、同研究ではCOVID-19に長期的に罹患する可能性を減らすには、ワクチン接種が効果的かつ重要であることも示されました。アルトマン教授は「新型コロナウイルスワクチンは驚くべき奇跡であり、非常にうまく機能し、地球をひどい状況から救い出しました。ワクチンがなければCOVID-19の死亡率や経済への影響がどうなっていたかは、誰にもわかりません。ワクチンは非常に効果がありました」と語っています。

さらに、「COVID-19に長期罹患しないための最善の方法は、新型コロナウイルスに感染しないことです。そして、新型コロナウイルスに感染しないための最善の方法は、ワクチン接種を行い、ウイルスの侵入を阻止するための十分なレベルの抗体を保有することです」と語り、ワクチンの重要性を語りました。

アルトマン教授はワクチン接種を受けた人の中にもCOVID-19を発症したり、ロングCOVIDを発症したりする人がいたことを認めながら、「ワクチン接種を受けることでロングCOVIDの発症率は50%ほど低下します。完全にロングCOVIDの危険から解放されるわけではありませんが、確実に発症率は下がります」と語っています。


他にも、ロングCOVIDと類似したバイオマーカーを持つ病気の存在も明らかになりました。特に似たものとしてアルトマン教授が注目しているのが、筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)です。ME/CFSには多くの類似した身体的兆候があり、発症後のPEMも報告されています。研究によると、ロングCOVIDとME/CFSの両方で「同じ血液バイオマーカー」や「腸内フローラの変化」が確認できているとのこと。この他、ロングCOVIDと多発性硬化症(MS)の間にもいくつかの類似点が確認されています。

ただし、これらのバイオマーカーがロングCOVIDの症状にどのように関連しているのかを「自信を持って説明できるような研究はまだ存在しない」とアルトマン教授は説明しました。

また、ロングCOVIDではさまざまな症状が確認されていることから、潜在的な治療法が一部の患者集団には効果的であるものの、その他のグループには効果を発揮しない可能性があるとアルトマン教授は説明。

「抗ウイルス薬で救われる人もいるし、抗凝固療法で救われる人もいるし、特定の自己免疫抑制で救われる人もいるかもしれません。想像できると思いますが、異なる人々をまとめてひとつの鍋に入れて同じように扱おうとしても、その謎を解き明かすことはできません。なので、慎重に分析を行っていく必要があります」とロングCOVIDに関する研究の難しさを語っています。

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in サイエンス, Posted by logu_ii

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