「安価な糖尿病治療薬で新型コロナの後遺症であるロングCOVIDのリスクを40%軽減できる」という研究結果、肥満でない人にも有効な可能性
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を発症すると、単に発熱やせきといったインフルエンザに似た症状に苦しむだけでなく、疲労感や認知能力の低下といった症状が長期間続くロングCOVIDという後遺症を患う可能性もあります。そんなロングCOVIDのリスクを、安価で広く使われている糖尿病治療薬のメトホルミンを服用することで軽減できるという研究結果が、医学誌のThe Lancet Infectious Diseasesで発表されました。
Outpatient treatment of COVID-19 and incidence of post-COVID-19 condition over 10 months (COVID-OUT): a multicentre, randomised, quadruple-blind, parallel-group, phase 3 trial - The Lancet Infectious Diseases
https://doi.org/10.1016/S1473-3099(23)00299-2
Metformin cuts risk of long COVID by 40% in patients with obesity, trial suggests | Live Science
https://www.livescience.com/health/coronavirus/metformin-cuts-risk-of-long-covid-by-40-in-patients-with-obesity-trial-suggests
Cheap Diabetes Drug Slashes Risk of Long COVID, Study Finds : ScienceAlert
https://www.sciencealert.com/cheap-diabetes-drug-slashes-risk-of-long-covid-study-finds
ロングCOVIDは強い疲労感や体力の低下、関節痛といった身体的症状に加え、「ブレインフォグ」とも呼ばれる認知能力の低下などの症状をもたらします。アメリカ・ニューヨーク州における労災請求を分析した研究では、ロングCOVIDを患う請求者の約71%が継続した治療を必要とするか6カ月以上働けない状態となっており、感染後1年以上が経過してもロングCOVID患者の18%は職場に復帰できていないことがわかっています。
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そんなロングCOVIDのリスクを薬物治療で軽減できるかどうかを調べるため、ミネソタ大学医学部のキャロリン・ブラマンテ助教らの研究チームは、アメリカに住む太りすぎまたは肥満の人々を対象にしたランダム化プラセボ対照試験を実施しました。
いずれも肥満を患っていた1126人の被験者はCOVID-19の検査で陽性と診断された後、半分が「安価な糖尿病治療薬であるメトホルミンを服用する実験群」、もう半分が「メトホルミンの偽薬を服用する対照群」に割り当てられたとのこと。
メトホルミンは肝臓での糖新生を抑制することによって血糖値を下げる糖尿病治療薬で、安価であることと費用対効果が高いことから、欧米の糖尿病治療ガイドラインでは第一選択薬に推奨されています。モデリング研究では、メトホルミンが新型コロナウイルスの増殖を抑制する可能性があると指摘されており、実際に過去の臨床研究ではメトホルミンがCOVID-19の死亡リスクを減少させることが示されています。
被験者を追跡調査した結果、診断から10カ月後までに1126人中93人がロングCOVIDであると診断されました。ロングCOVIDと診断された被験者はメトホルミンを服用した実験群で35人(6.3%)で、偽薬を服用した対照群では58人(10.4%)であり、メトホルミンの服用によりロングCOVIDのリスクが約40%減少することが示されました。
また、発症から4日以上経過したタイミングでメトホルミンの服用を始めた被験者よりも、症状から4日以内にメトホルミンを服用し始めた被験者の方が、ロングCOVIDのリスクが低いこともわかったとのことです。
なお、今回の研究ではメトホルミン以外にイベルメクチンとフルボキサミンもテストされましたが、これらの薬はロングCOVIDのリスクを軽減させないことも示されました。
ブラマンテ氏は科学系メディアのLive Scienceに対し、「メトホルミンには臨床的利益をもたらす理論的な理由がありましたが、多くの概念はテスト時に実際にはうまくいかないものです」「私はこの結果にとても驚きました」と述べています。
メトホルミンは比較的簡単に入手可能な上に、妊娠中や授乳中の女性に対する安全性も検証済みであり、今回の臨床試験にも妊娠中の女性が含まれていました。また、今回の研究は肥満の被験者を対象にしたものでしたが、研究チームはメトホルミンが新型コロナウイルス自体に作用すると考えており、肥満でない人々のロングCOVIDリスクも軽減できると予想しています。
今回の研究には直接関与していない心臓専門医のヴァレンティーナ・パントマン博士は、今回の研究結果はCOVID-19が重症化しやすいことが指摘されている肥満の人々にとって有望であり、すぐに入手できる薬を用いた点についても称賛しました。
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