新型コロナ後遺症で頭がぼーっとして集中できなくなる「ブレインフォグ」を既存の薬で治療する方法が報告される
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)はせきや発熱、呼吸困難、体の痛みといった症状が出るほか、感染性が消失した後も強い倦怠(けんたい)感や息切れといった後遺症(ロングCOVID)が残るケースがあります。そんなCOVID-19の後遺症の1つに、頭がぼーっとして認知的な問題が生じる「ブレインフォグ」がありますが、このブレインフォグを既存の薬の組み合わせで治療できるという研究結果が報告されました。
Clinical experience with the α2A-adrenoceptor agonist, guanfacine, and N-acetylcysteine for the treatment of cognitive deficits in “Long-COVID19” - ScienceDirect
https://doi.org/10.1016/j.nerep.2022.100154
Potential New Treatment for “Brain Fog” in Long COVID Patients < Yale School of Medicine
https://medicine.yale.edu/news-article/potential-new-treatment-for-brain-fog-in-long-covid-patients/
One of Long COVID's Worst Symptoms May Have a Potential, Readily Available Treatment : ScienceAlert
https://www.sciencealert.com/one-of-long-covids-worst-symptoms-may-have-a-potential-readily-available-treatment
COVID-19から回復した人の一部は、頭の中にもやがかかったようにぼんやりしてしまう「ブレインフォグ」を経験します。ブレインフォグを含めたCOVID-19の後遺症は数カ月以上も続くことがあり、生活に多大な影響を及ぼしますが、記事作成時点ではブレインフォグに対する承認済みの治療オプションはないとのこと。
新型コロナから回復した人の一部が経験する「認知症のような症状」の実態とは? - GIGAZINE
イェール大学の神経科学教授であるAmy Arnsten氏は、ワーキングメモリや注意の調節といった認知タスクは脳の前頭前野という領域で実行されるものの、この領域は炎症やストレスに対して非常に脆弱(ぜいじゃく)であると指摘。「より高い認知機能を生成する脳回路は、感覚刺激なしで抽象的な思考などの神経活動を作成しなければならないため、非常に特別な分子ニーズを持っています」とArnsten氏は述べ、これらの分子ニーズが炎症因子によって妨げられる可能性があるとしています。
一方、イェール大学の神経学助教であるArman Fesharaki-Zadeh氏はロングCOVID患者の治療を行う中で、外傷性脳損傷やPTSDの治療に使用してきたグアンファシンとN-アセチルシステインという薬の組み合わせが、ロングCOVIDにおけるブレインフォグを治療する上で有効ではないかと考えるようになったそうです。
グアンファシンは注意欠陥・多動性障害(ADHD)の治療目的で開発された医薬品で、前頭前野の接続を強化し、炎症やストレスから保護するように設計されています。記事作成時点ではADHD患者に対して優先的に使用される医薬品ではないものの、前頭前野の機能不全に関連するその他の病気の治療に用いられているとのこと。また、N-アセチルシステインは強力な抗酸化剤および抗炎症剤であり、前頭前野の治療にも効果を発揮します。
2020年6月に重度のブレインフォグを訴えるロングCOVIDの患者を診察した際、Fesharaki-Zadeh氏はその症状が脳しんとう後の患者に見られるものと似ていることに気づきました。そこで、外傷性脳損傷の患者に処方されることが多いN-アセチルシステインで治療を試みたところ、患者はすぐにエネルギーと記憶力の改善を報告したとのこと。さらに、N-アセチルシステインとの相乗効果が期待できるグアンファシンを加えたところ、ブレインフォグの解消に効果があることがわかりました。
その後、Fesharaki-Zadeh氏やArnsten氏らの研究チームは、ロングCOVIDでブレインフォグを訴えている12人の患者に対し、グアンファシンとN-アセチルシステインの組み合わせによる治療を試みました。Fesharaki-Zadeh氏は患者に対し、就寝時に1mgのグアンファシンを服用し、強い副作用がなければ1カ月後に用量を2mgに増やすよう指示しました。これに加えて、患者は1日1回、600mgのN-アセチルシステインを服用したとのことです。
2人の患者は低血圧やめまいといったグアンファシンの副作用によって治療を中断し、さらに2人の患者も不特定の理由でフォローアップできなかったとのこと。しかし、治療を継続した8人の患者全員が記憶力・組織行動のスキル・マルチタスク能力に大きな改善があったと報告し、一部の患者は完全にブレインフォグが消えて日常生活に戻ることができました。
今回の研究には偽薬を処方された対照群がありませんでしたが、1人の患者は副作用で一時的に治療を中断した際に認知障害が再発し、治療を再開するとブレインフォグが再び消えたと報告しています。Arnsten氏は、「これは偽薬を使った対照試験ではありませんでしたが、この逸話は治療効果がプラセボ効果ではなく、本当に薬の効果だったことをより強く確信させてくれます」と述べています。
グアンファシンとN-アセチルシステインの組み合わせがブレインフォグの正当な治療法として確立されるには、より大規模な臨床試験が必要です。しかし、2つの薬はすでにアメリカ食品医薬品局(FDA)の承認を受け、長年にわたり使用されてきた薬であるため、医師が処方を決めればすぐに患者が入手できるとのこと。
Fesharaki-Zadeh氏は、「ロングCOVIDの治療法が不足しているため、患者でこの治療の利点を見続けるにつれ、この情報を広めることが急務だと感じました」「研究試験に参加するのを待つ必要はありません。あなたは診察を受けている医師に尋ねればいいのです。これらの薬は手頃な価格で広く入手可能です」と述べました。
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