「世界を揺るがす暴力的危機を事前に予測するシステム」の構築に世界中の研究者らが取り組んでいる
2022年2月に始まったロシアのウクライナ侵攻は両国に住む約2億人の生活を激変させ、それ以外の世界各国もエネルギー価格の高騰や農産物輸出の停止などによる影響を受けました。このように、国家レベルの暴力的な紛争は世界を揺るがす危険性を秘めています。そんな中、世界中の研究者らが「暴力的な紛争を事前に予測して防ぐためのシステム」を構築するプロジェクトに取り組んでいます。
Anticipating the Future of Peace and War – Inaugural Workshop - GESDA Science Breakthrough Radar
https://radar.gesda.global/events/anticipating-the-future-of-peace-and-war-inaugural-workshop
Can We Make a System That Will Anticipate Violent Crises? These Researchers Think So : ScienceAlert
https://www.sciencealert.com/can-we-make-a-system-that-will-anticipate-violent-crises-these-researchers-think-so
科学に基づいた未来予測を国際外交に役立てるために設立されたスイスの財団・Geneva Science and Diplomacy Anticipator(GESDA/ジュネーブ・サイエンスディプロマシー財団)が、2023年4月に「Anticipating the Future of Peace and War(平和と戦争の未来についての予測)」というワークショップをジュネーブで開催しました。このワークショップには世界各国から30人の科学者らが集まり、将来的な戦争や紛争を予測するシステム構築について議論を交わしたとのこと。
未来予測ワークショップに参加したフィンランド・トゥルク大学の未来研究センター教授であるSirkka Heinonen氏は、「私たちは危機的な社会に住んでいます。そして、さまざまな種類の望ましくない未来が存在します」と述べています。
今回の未来予測ワークショップは、主に「未来を予測する方法の特定」に焦点が当てられていましたが、2023年中に開かれる今後のワークショップではさらに踏み込み、「人類の歴史を激変させる可能性を秘めた具体的な動き」に目を向ける予定だそうです。Heinonen氏は、「未来の危機を探る時、私たちはそれを防ぐための解決策を見つけなければなりません。好ましい未来に対しては、それを実現するための手順や方策を決めなくてはいけません」と主張しました。
ロシアによるウクライナ侵攻がヨーロッパ各国に大きな衝撃を与える中で開かれた今回の未来予測ワークショップですが、参加者らは必ずしもロシアのウクライナ侵攻が主要な焦点ではないとしています。海外メディアのAFPは、「ワークショップは数年、数十年先の出来事を予測するシステムを構築し、長期的により良い結果を得るための方法を意思決定者に助言することを目指したものです」と述べています。
アメリカ・コロンビア大学の公共政策教授であり元国連平和維持担当事務次長のJean-Marie Guéhenno氏は、「このプロジェクトはウクライナの戦争がきっかけで始まったわけではなく、もっと構造的なものです」「市民がまだ考えていないことに注意を向けることが重要なのです」とコメントしました。
複雑に絡み合ったさまざまな要因が急速な変化をもたらしている現代社会では、数年先はおろか数カ月先の未来を予測することすら難しい課題です。そんな中、専門家らは人々のデータを管理する大企業に権力が集中することや、それを防ぐための規制が導入されることなどを予測しています。他にも「殺人ロボット」や「感情を持つAI」の登場など、急速に発展するAIに関連する無数のシナリオやリスクも指摘されています。
Heinonen氏は、「いくつものあり得る未来が存在し、それに影響を与える要因も膨大な数に上ります」と述べ、未来に大きな影響を及ぼす潜在的な要因について対策することが必要だと訴えています。たとえばAIについては、正しい方向に導くための倫理的要件や前提、規制を設けるために時間がかかりすぎると、「手遅れになる」可能性があるとのこと。
スイス連邦の元駐イギリス大使であり外務省の科学代表特別代表を務めるAlexandre Fasel氏も、ChatGPTの登場からわずか数カ月でAIが急速に発展し、その影響を検討するために猶予期間を設けることを求める声が上がったことを指摘。今後、ChatGPT以上に大きな変化をもたらすイベントが生じる可能性があり、人々は未来を予測する方法を必要としていると述べました。
Guéhenno氏は、もし20年前に同様の予測演習が行われていたら、世界中の政治指導者らはFacebookのようなSNSが持つ破壊的な可能性を予見できた可能性があると指摘しています。将来的な変化を予測するにあたって重要なのは「権力構造の変化」を特定することであり、これによると現代社会ではMicrosoftやGoogle、Amazonといったビッグデータ企業が、多くの国よりも強い権力を獲得しているそうです。Guéhenno氏は「データの管理というこの新しい権力の中心に対するガバナンスの問題があります」と述べました。
Fasel氏は、未来を予測することがどれほど難しいのかを実感するため、「○年前に現代社会がこうなっていることを予測できただろうか」と考えてみることを推奨しています。たとえば記事作成時点から25年前にあたる1998年4月の時点では、ロシアではウラジーミル・プーチン氏が大統領に就任しておらず、スマートフォンも存在していませんでした。「これが私たちが取り組む課題です」とFasel氏は述べました。
なお、以下の「1966年の子どもたちが2000年の社会がどうなっているのかを予想した内容」をまとめた記事を読むと、未来を予測することがどれほど難しいかを実感できます。
1966年の少年少女が「西暦2000年」という未来の予想を語るムービーが驚異的 - GIGAZINE
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