欧州6カ国が共同でAIの研究を行う「AI研究ハブ」を構築へ、アメリカへの人材流出の阻止を狙う

By Jonathan Cohen

フランスとドイツに加え、オランダ、イギリス、スイス、イスラエルの6カ国にまたがるAI研究機関の設立に向けた動きがヨーロッパで起こっています。ヨーロッパでは優秀なAI研究者がアメリカ企業に次々と引き抜かれるという状況があり、これに危機感を抱いた研究者グループがヨーロッパにおけるAI研究体制の立て直しを図って各国政府に書簡を送っています。

Scientists plan huge European AI hub to compete with US | Science | The Guardian
https://www.theguardian.com/science/2018/apr/23/scientists-plan-huge-european-ai-hub-to-compete-with-us

いま世界のAI研究の最先端を行くのはアメリカと中国であるといわれています。進化が著しいAIは今後社会の在り方を大きく変えるともいわれており、ロシアのプーチン大統領がAIを制するものが世界を牛耳ると説くように、今後の世界のパワーバランスはAI技術によって決定づけられるという考え方があります。

来たるべきAI時代の覇権を奪うべく、各国はAI技術者の獲得合戦を繰り広げています。特にアメリカは数千万円クラスの年収を提示して世界中のAI研究者を次々と集めており、その影響でヨーロッパではAI研究者の若い世代がごっそりと欠落する状況が生まれていることが報じられています。

'We can't compete': why universities are losing their best AI scientists | Science | The Guardian
https://www.theguardian.com/science/2017/nov/01/cant-compete-universities-losing-best-ai-scientists


この状況に危機感を抱いたヨーロッパのAI研究者グループが、ヨーロッパ各国が共同で大きなAI研究機関を設立する必要性を唱えています。12人の研究者の署名が記された書簡「Initiative to establish a European Lab for Learning & Intelligent Systems」(学習および知能システムに関するヨーロッパ研究所設立へのイニシアチブ)には、アメリカと中国に押されている現状を打破するために、研究機関「ELLIS」を立ち上げてヨーロッパでのAI研究体制を強化し、人材流出を防ぐことを呼びかける内容がまとめられています。

Initiative to establish a European Lab for Learning & Intelligent Systems
https://ellis-open-letter.eu/


この書簡では、「機械学習は、技術的および社会的なAI革命の核心となるものであり、今後のヨーロッパの競争力に影響を与えるもの」であること、そして「世界の最先端の研究所や頭脳はアメリカに集まり、AIに対する投資は中国とアメリカに集中していることで、ヨーロッパはこれに追いつけていない」という状況があるとし、このような状況から巻き返すために「European Lab for Learning & Intelligent Systems」(学習および知能システムに関するヨーロッパ研究所:ELLIS)を、各国政府の主導によって設立する必要があると説いています。

このような試みは既にヨーロッパで実施されており、スイスとフランスの国境にまたがる素粒子物理学の研究所「CERN」(欧州原子核研究機構)もその一つ。CERNは第二次世界大戦終結後にヨーロッパにおける物理学研究を立て直し、やはりアメリカに優秀な研究者が流出することを防ぐことをその目的の一つとして設立されました。

By xlibber

書簡に署名した研究者の一人、ケンブリッジ大学の情報工学教授で、Uberの主任科学者でもあるズビン・ガラマニ氏は「何らかの手立てを打つことが必要で、それは今すぐでなければなりません」「これにより、10人レベルではなく100人クラスの専門家がさまざまな国から集まるヨーロッパのAI研究の中心地がもたられさます」と述べ、新研究機関設立の重要性を唱えています。

ELLIS設立には「優れた基礎研究がヨーロッパ内で行われ、機械学習および現代のAIが世界を変える方法をヨーロッパが形作ること」と、「ヨーロッパ内で経済的なインパクトと雇用が、産業界からの関心ではなく、卓越した自由な研究によってもたらされること」という二つのことがミッションとして掲げられてます。

新研究機関設立の流れとしては、まずフランスとドイツが共同の研究を開始し、その後に各国が合流する形が想定されています。研究機関には中央集権的な組織は必要とされないとのことですが、各国政府による長期的な資金提供が不可欠であるともされています。各国に置かれる研究所は、最低でもドイツの有名な研究機関「マックス・プランク研究所」と同レベルの規模を持つものにすることが求められ、最初の設立に1億ユーロ(約130億円)、そして最初の10年は運営資金を徐々に増やし、最終的には年間3000万ユーロ(約40億円)の予算が必要になるとしています。書簡ではこの取り組みを2018年内に開始することを呼びかけており、各国政府が資金を負担することを求めています。

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