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児童の性的虐待防止を名目にオンラインサービスの暗号化を弱体化させる危険性をはらむEUの「チャット規制法」に批判の声


現地時間の2023年3月1日、EUが提案している「チャット規制法」と呼ばれるオンライン上で児童の性的虐待と戦うための法案に関する公聴会を、ドイツ連邦議会のデジタル委員会が開催しました。公聴会にはITの専門家、自由主義者、法執行機関の関係者、子どもの保護者などが参加したのですが、参加者は口をそろえてEUの法案は子どもを保護するものではなく、基本的な人権を侵害する可能性がある非常に危険なものであると指摘しています。

Deutscher Bundestag - Sachverständige üben breite Kritik an Plänen zur Chatkontrolle
https://www.bundestag.de/dokumente/textarchiv/2023/kw09-pa-digitales-928540

"There is no prosecution at any cost."
https://tutanota.com/blog/posts/germany-against-client-side-scanning-csam

オンライン上に存在する「児童の性的搾取に関連するデータ(CSAM)」を排除するため、EUではメールやチャットサービスの提供者に通信内容の監視を義務付ける「チャット規制法」が提案されています。このチャット規制法は、児童の性的虐待を防ぐことを名目に一般市民への過剰な監視を実現する法案であるとして、多くの専門家が批判の声を上げています。

児童の性的虐待を防ぐため「暗号化されたプライベートメッセージのスキャン」を求めるEUの計画に専門家から非難殺到 - GIGAZINE


チャット規制法が施行された場合、オンラインサービスプロバイダーはすべてのチャットメッセージ、メール、ファイルのアップロード、ゲーム内チャット、ビデオ通話などをスキャンし、CSAMが含まれていないかを監視する義務が課せられることとなります。これは暗号化されるはずのあらゆるメッセージがサービスプロバイダーに監視されることを意味するため、EUに住むすべての人のプライバシーが侵害され、オンラインセキュリティレベルを弱体化させることにつながるとも指摘されています。

「EUは児童を性的虐待から守る名目で一般市民を監視しようとしている」という批判 - GIGAZINE


ドイツ政府はこのチャット規制法に反対の立場を示しています。さらに、2023年3月1日にはドイツ連邦議会のデジタル委員会がチャット規制法に関する公聴会を開催し、有識者からの意見を募りました。この中で、多くの参加者が「チャット規制法は明らかに行き過ぎたものであり、EU法により保護されているはずの基本的人権を損なうものである」と指摘したそうです。

公聴会に出席したノルトライン=ヴェストファーレン州サイバー犯罪センターの責任者であり上級検察官でもあるマーカス・ハルトマン氏は「どうあってもチャット規制法の成立はあり得ません」と主張。さらに、サイバーセキュリティの専門家として、チャット規制法が成立すれば既存のオンラインセキュリティが弱まることになると警告しています。加えて、CSAMの検出をどのように行うかにも疑問を呈しており、例えばAIを使用したスキャンツールはエラー率が高く、誤検知率が10~20%ほどあると指摘しています。


別の参加者であるFraunhofer Institute for Secure Information Technologyのマーティン・シュタインバッハ氏は、チャット規制法は「何百万人もの善良なEU市民にとって耐えがたいプライバシー侵害である」と指摘。さらに、「法執行機関の人員が限られているためそのような大規模な監視システムを日常的にどのように管理できるのか」と述べ、そもそも実現不可能なものであると批判しています。

オンラインセキュリティやプライバシー保護のために立ち上げられたChaos Computer Clubで広報担当を務めるエリナ・アイクシュテット氏も、「我々が直面しているのは前例のない監視構造の青写真そのものです」と、チャット規制法を批判。

公聴会に参加した幼稚園の関係者ですら、チャット規制法の成立には反対の立場を示しており、ドイツではチャット規制法に対する危機意識がかなり高いことが浮き彫りとなっています。


ドイツ連邦議会はチャット規制法の制定に関与していないものの、欧州委員会や欧州議会、閣僚理事会は関与していることから、ドイツ政府が閣僚理事会を経由して影響力を及ぼすことは可能です。なお、少なくともドイツ政府はチャット規制法について明確に反対の立場を示しており、他にもアイルランド・オーストリア・オランダが同様の立場を示しているようです。

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in ソフトウェア,   ネットサービス, Posted by logu_ii

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