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「EUは児童を性的虐待から守る名目で一般市民を監視しようとしている」という批判


EUの政策執行機関である欧州委員会が2022年5月に、オンラインでの児童性的虐待防止の目的で「サービスプロバイダーは公的機関からの要求に応じて、ユーザーのメッセージをCSAM(児童性的虐待資料)スキャンする義務を負う」という規制を提案しました。しかし、この規制は「一般市民の監視である」として、専門家から非難が殺到しています。そんな中、ドイツの暗号化電子メールサービス・Tutanotaの共同創設者であるMatthias氏が「CSAMスキャンが児童ポルノの取り締まりに寄与する根拠はない」と述べ、欧州委員会を強く批判しています。

CSAM Scanning: EU Commission's lies uncovered - Surveillance will not save the children.
https://tutanota.com/blog/posts/eu-csam-scanning/


EUのCSAMスキャン義務化とそれに対する批判については、以下の記事を読むとわかります。

児童の性的虐待を防ぐため「暗号化されたプライベートメッセージのスキャン」を求めるEUの計画に専門家から非難殺到 - GIGAZINE


欧州委員会はSCAMスキャン義務化について、以下の3つの主張を公開討論で行いました。

1:EU圏に住む児童の5人に1人が性的虐待を受けている。
2:AIベースの監視は、私たちのプライバシーの権利を損なうことはなく、子どもたちを救うものである。
3:CSAMの90%はヨーロッパのサーバーでホストされている。

Matthias氏は「児童虐待は大きな問題であり、社会で最も弱い存在である児童を保護するために政治が多くのことをする必要があることには同意します」と前置いた上で、SCAMスキャンはEUが一般市民を監視するためのシステムにしかならないと批判しています。

Matthias氏は、欧州委員会が公式サイトにも掲載している「5人に1人が性的虐待を受けている」という主張を裏付ける統計が存在しないと指摘。世界保健機構(WHO)は「ヨーロッパでは子どもたちの9.6%が性的虐待を受けている」というデータを示しており、Matthias氏は欧州委員会が数字を誇張しているのではないかと述べています。ただし、数字が水増しされていたとしても、性的虐待を受けている児童が多いことは変わらないので、EUは性的虐待を阻止するに行動を起こすのは間違っていないと述べています。


そしてMatthias氏は、欧州委員会が公式サイトで「70%~85%の児童が、性的虐待の加害者を知っています。大多数の子どもは信頼している人から被害を受けています」と述べていることについて、「すべてのメッセージでCSAMスキャンを行うことが、家庭やスポーツクラブ、教会で発生する性的虐待の防止につながるのでしょうか?」と疑問を呈しています。

さらにMatthias氏は「プライベートメッセージの監視が児童性的虐待への取り組みに役立つかどうかについては、すでにある監視データを見るべき」と主張。Matthias氏によれば、2021年にTutanotaが裁判所から通信監視命令を受けた事例のうち、児童ポルノ関連のものは1件で、全体の1.3%に当たるとのこと。実際に通信監視命令を受けた事例の3分の2以上は、ランサムウェアに関するものだったとのこと。

加えて、2019年にドイツ連邦司法省が発表したデータによると、電気通信監視措置を行った事件のうち47.3%以上が薬物犯罪に関するもので、児童ポルノに関するものは全体の0.1%にあたる21件だったとのこと。このことから、Matthias氏は「メッセージの監視を強化しても、児童性的虐待の加害者を追い詰めるために大きな役割を果たすとはいえません」と論じています。


また、欧州委員会が「CSAMの90%がヨーロッパのサーバーでホストされている」という主張について、その数字が正当なものではないとMatthias氏は指摘しています。

CSAMの削除を推進している団体・ecoも「欧州委員会の草案は政府に監視のフリーパスを与える可能性があるというのが私たちの見解です。これは非効率的であり、違法です。児童を持続的に保護するためには、まず捜査や訴追のための人員を増やす必要があります」と述べています。また、ドイツで長年児童虐待の捜査に携わってきた法執行機関関係者も「事件が増えて加害者が増えるだけなら、CSAMスキャンのように基本的権利を侵害する必要ないでしょう」と述べています。

最後にMatthias氏は「欧州委員会がこうした誇張をしながらCSAMスキャンを支持する世論を煽るのは信じられないことです。欧州委員会はこのヨーロッパで、児童を性的虐待から守るという議論を、中国のような監視システムを導入する大義名分に使っているようです。しかし、ヨーロッパは中国ではありません」とコメントしました。

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in メモ, Posted by log1i_yk

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