サイエンス

「クフ王のピラミッドに隠された空間」を宇宙線で正確にマッピングすることに名古屋大などのチームが成功、スコープによる内部空間の撮影も


約4500年前にエジプトで建設されたギザの大ピラミッド(クフ王のピラミッド)は、高さ約140mの世界最大のピラミッドであり、壮大な外観や複雑な内部構造が多くの人々を引きつけています。そんなクフ王のピラミッドに隠された謎の空間を、地上に降り注ぐ宇宙線の多くを占めるミュー粒子(ミューオン)を使用して正確にマッピングすることに、名古屋大学などのチームが成功しました。また、内部空間にスコープを挿入して撮影した映像も公開されています。

Precise characterization of a corridor-shaped structure in Khufu’s Pyramid by observation of cosmic-ray muons | Nature Communications
http://dx.doi.org/10.1038/s41467-023-36351-0


Hidden corridor in Egypt’s Great Pyramid mapped with cosmic rays | New Scientist
https://www.newscientist.com/article/2362300-hidden-corridor-in-egypts-great-pyramid-mapped-with-cosmic-rays/

Scientists have mapped a secret hidden corridor in Great Pyramid of Giza | Ars Technica
https://arstechnica.com/science/2023/03/scientists-have-mapped-a-secret-hidden-corridor-in-great-pyramid-of-giza/

Cosmic rays reveal 'hidden' 30-foot-long corridor in Egypt's Great Pyramid | Live Science
https://www.livescience.com/cosmic-rays-reveal-hidden-30-foot-long-corridor-in-egypts-great-pyramid

ピラミッドの内部構造スキャンを目指すカイロ大学とフランスのHIP研究所が主導するプロジェクト・ScanPyramidsは2016年に、クフ王のピラミッドの北側に隠された未知の空間があるという(PDFファイル)研究結果を報告しました。そして今回新たに、名古屋大学などを含む国際的な研究チームは、ミューオンを使用して空間の内部構造を正確にマッピングすることに成功しました。

ミューオンは宇宙線が大気と衝突してできる透過力の強い素粒子であり、密度の低い気体と密度の高い固体では異なる相互作用をするため、ミューオンを検出することで外からは見えない物体の内部構造をスキャンすることができます。ミューオンラジオグラフィと呼ばれるこの手法を用いることで、ピラミッドのような建築物に存在する隠された空間を検出できるというわけです。

研究チームは、名古屋大学が開発した素粒子の軌跡を立体的に記録する原子核乾板と読み取りシステムを用い、ピラミッド北側から延びる通路のさまざまな場所にミューオン検出器を配置して調査を実施。その結果、クフ王のピラミッド北側に長さ約9m、幅と高さが2mで、天井部分が切妻型になっている水平な空間があることが判明しました。以下の写真は、ピラミッドのさまざまな場所に配置されたミューオン検出器を撮影したもの。


隠された空間はスコープで直接撮影が可能なほどピラミッドの表面に近いことも判明したため、ScanPyramidsは実際に発見された未知の空間にスコープを挿入し、内部の映像を撮影することにも成功しました。ScanPyramidsが撮影した内部空間の様子は、以下の動画で確認できます。


ScanPyramids SP-NFC 2023 Report from HIP Institute on Vimeo.



スコープの挿入を試みる研究チーム。撮影にはNHKも協力したとのことです。


あらかじめチューブのようなものでスコープが通る空間を確保したようで、するするとスコープが入っていきます。


撮影された内部空間の様子が以下。左右や床はゴツゴツとした岩肌ですが、上部はきれいな切妻型にそろえられています。


空間は狭そうにも見えますが、研究チームが公開したスケッチを見ると人間が立てる程度の高さがあることがわかります。論文の共同筆頭著者である名古屋大学の森島邦博准教授は、今回の発見において最も興味深かったのは、ファイバースコープを使って内部を確認できたことだとコメントしました


エジプト考古最高評議会事務総長のザヒ・ハワス氏は3月2日の記者会見で、この空間は建築材料の重量による負荷を軽減するために作られた可能性が高いと指摘。論文の共同筆頭著者であるパリ=サクレ大学の研究者・Sébastien Procureur氏も、この空間が重量軽減構造のテストとして作られた可能性があると同意しています。

Procureur氏は内部構造を撮影したことについて、「空間があることは知っていましたが、実際に見るのはまったく異なります」「これを見た時、私たちは不思議な気持ちになりました。いろいろな意見があるようですが、私は空間が空っぽでよかったと思います。墓を開けるのに参加するのは嫌だったと思いますから」と述べました。

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in サイエンス,   動画, Posted by log1h_ik

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