鳥は「安定飛行モード」と「戦闘機モード」を切り替えながら飛んでいることが判明
鳥からインスピレーションを得て羽ばたく飛行機の設計図を描いたレオナルド・ダ・ヴィンチを始め、有史以来人類は空を飛ぶ鳥の飛行メカニズムについて研究を重ねてきましたが、現代でも未解明の謎が多く残されています。これまであまり重要視されてこなかった、飛行中の鳥の重心や体勢に関する研究により、一部の鳥は安定性と不安定性の両方を制御しながら飛んでいることが分かりました。
Birds can transition between stable and unstable states via wing morphing | Nature
https://doi.org/10.1038/s41586-022-04477-8
Geometric Analysis Reveals How Birds Mastered Flight | Quanta Magazine
https://www.quantamagazine.org/geometric-analysis-reveals-how-birds-mastered-flight-20220803/
空を飛ぶ鳥は翼を広げたままゆったりと飛ぶこともあれば、急激に方向転換するような機敏な飛行も可能です。鳥がどのような場面でも安定して飛べる理由についての基礎理論を打ち立てた2001年の論文の中で、著者のグラハム・テイラー氏とエイドリアン・トーマス氏は、「鳥が安定的に飛ぶことができるのは、元から備わっている『固有の安定性』と、かく乱しようとする力に対して能動的に反応する『制御性』の組み合わせによるものである」と説明しました。
この研究に感銘を受けたミシガン大学のクリスティーナ・ハーベイ氏らの研究チームは、鳥が安定的に飛ぶメカニズムを方程式にしたいと考えて、鳥の「慣性特性」に注目した研究に着手しました。慣性特性とは、物体の質量とその分布に関するもので、主に流体力学に基づく空力特性を重視する鳥の研究ではあまり顧みられてこなかった要素です。
研究を開始したハーベイ氏らはさっそく、博物館から22種の鳥の冷凍標本36体を取り寄せて、体長や体重、翼幅を測定したり、手で翼を曲げ伸ばしして可動域を確かめたりしました。そして、翼・骨格・筋肉・皮膚・羽根などのパーツを幾何学的形状の組み合わせとして表現する新しいモデリングソフトを開発しました。
by Jasmin C.M. Wong
さらに、制御性や安定性を数式で表すにあたり、ハーベイ氏らは鳥の重心と中立点との距離である静安定余裕を算出しました。例えば、飛行中の鳥の中立点が重心より後ろにある場合は鳥は安定しており、前にある場合は不安定になります。不安定であるということは空中で動きが変わりやすくなるということでもあるので、鳥が空中で機敏に動くにはある程度の不安定性も必要です。
by Samuel Velasco/Quanta Magazine
研究チームが開発したモデルで22種の鳥を分析した結果、完全に不安定な鳥が1種、完全に安定している鳥が4種、そして翼を変形させることで安定した飛行と不安定な飛行を切り替えることができる鳥が17種という結果になりました。この結果についてハーベイ氏は「鳥は戦闘機のようなスタイルと旅客機のようなスタイルの間を行き来することができるということです」と話しました。
鳥が得意とする宙返りや急降下は人が乗る旅客機にはあまり必要ありませんが、ドローンなど思い切ったマニューバが可能な無人航空機の運動性を高めるのに役立つと期待されています。そのため、ハーベイ氏らの研究チームは今後、鳥に関する基礎研究を進めるのと並行して工学の分野に関心のある学生たちも集めていく予定とのことです。
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