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アダルト産業を実質的に規制しているのは政府や国際条約ではなく「クレジットカード会社」だという指摘


ポルノ動画やその他の成人向けコンテンツを取り扱うウェブサイトでは、しばしば許容される性的コンテンツのルールが変更されて、過激な部分の修正を余儀なくされたり商品そのものが販売停止になったりすることがあります。そんなアダルト産業の事実上規制しているのは政府や国際条約などではなく、「MastercardVisaなどのクレジットカード会社」であると、金融・経済系メディアのFinancial Timesが指摘しています。

Inside the secret, often bizarre world that decides what porn you see | Financial Times
https://www.ft.com/content/cff23e36-b507-4717-8830-8b06741c8fd5

2020年、「世界最大手のアダルト動画サイトであるPornhubにおいて児童ポルノやリベンジポルノが多数投稿されており、Pornhubはそこから収益を得ている」と、大手新聞社のニューヨーク・タイムズが報じました。これに対してMastercardやVisaはPornhubの決済を停止すると発表し、Pornhubを運営するMindGeekやオンラインで活動するセックスワーカーたちは苦境に立たされました

アダルトムービー世界最大手「Pornhub」への決済をMastercardとVisaが停止、児童の性的虐待コンテンツ疑惑で - GIGAZINE


この動きに関与していた人物の1人が、Pershing Square Capital Managementという企業の創設者兼CEOを務めるビル・アックマン氏です。Pershing Square Capital Managementは上場企業の株式を数十億ドル(数千億円)単位で購入し、その企業のビジネス慣行や株価に影響を及ぼす活動家ファンドだとのこと。アックマン氏はニューヨーク・タイムズの報道を見て義憤を覚え、当時MastercardでCEOを務めていたアジェイ・バンガ氏に対して「Pornhubとの提携を直ちにやめるべきだ」というメッセージと共に記事のリンクを送りつけたとのこと。

それからわずか数日後、MastercardはPornhubの決済を停止することを発表しました。必ずしもアックマン氏がリンクを送ったことだけが理由ではないものの、Financial Timesはアックマン氏の行動について「Mastercardのバランスを崩すのに役立ったことは想像に難くありません」と述べています。アックマン氏は官僚的な体制を持つ政府や規制当局よりも、Mastercardなどのクレジットカード会社の方が迅速に行動することを理解しており、「クレジットカード会社は何が許され、何が許されるべきではないコンテンツなのかの、事実上の規制者でなくてはなりません」と述べています。


結局、Pornhubは未承認ユーザーによってアップロードされたコンテンツの削除を決定し、1300万本以上あった動画が300万本ほどまで減ってしまいました。Financial Timesは、「これはおそらくインターネットの歴史上で最大のコンテンツ削除でした」と指摘しました。

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by Prachatai

ハリウッド映画には1930年代~60年代にかけてヘイズ・コードと呼ばれる自主規制条項があり、多くの主要映画がこの規制に沿って作られました。ところが、ポルノ業界におけるヘイズ・コードはMindGeekなどの企業によって維持されているのではなく、クレジットカード会社・決済サービス・銀行といったエコシステムによって維持されているとのこと。

Financial Timesが入手した決済処理業者・MobiusPayの「ポルノ業界のベストプラクティス文書」によると、「過激な用語」「武器や暴力による実害の描写」「強姦(ごうかん)の示唆」「近親相姦(そうかん)」「催眠術やマインドコントロールの演技」など、多岐にわたる禁止事項が定められていたそうです。MobiusPayはPornhubにおけるクレジットカードを通じた決済を行っており、VisaやMastercardが設けた「原則」に従ってこれらの条項を決めています。

MobiusPayが規制するコンテンツや文言を決定する際には、MastercardやVisaとの話し合いも行われるそうですが、元となる大ざっぱで曖昧なクレジットカード会社の原則から具体的な条項を決めるのはMobiusPay側です。たとえば、Mastercardが「人体の損傷・切断」を禁じていることに基づいてMobiusPayはすべての流血描写を禁じているほか、「獣姦」が禁止されていることから「エイリアンとの性行」も禁止している模様。

VisaやMastercardは、Financial Timesによるインタビューに応じませんでしたが、両社とも「たとえ取引が不愉快であったり道徳的に疑わしかったりしても、優先事項は合法的な取引を支援することです」という点を強調したとのこと。主な要素は「合法性」だとのことで、MastercardはPornhubとの取引を停止したのは「サイト上で違法な動画が配信されていたため」と主張し、当時の決定を正当化しました。


こうした企業による規制に悩まされているのは、Pornhubや違法な動画をアップロードする人々だけではなく、合法的な配信を行うセックスワーカーも問題に直面することがあります。アダルト動画の女優であり作家・配信者としても活動するジェシカ・ストーヤ氏によると、「生理」がオンラインの有料アダルト配信サイトでNGワードになっているとのこと。そのため、生理のため普段のようなパフォーマンスができない際にも、口頭やチャットで視聴者にそのことを説明することができないそうです。

生理がNGワードになっているのはそれが「血」に関連するためだそうで、「私たちは生理が完全に抹殺された文化の中で、性に目覚める人々を集めているのです」とストーヤ氏はコメント。ポルノに関してはVisaやMastercardが教皇より力を持っていると指摘し、「性的に許されることと許されないことを決定するのは政府ではなく、企業やクレジットカード会社です」と述べています。

ストーヤ氏は、ほとんどの政府による決定とは異なりクレジットカード会社などの検閲は特定のプロセスがなく、事前に当事者との話し合いや公的な説明もほとんどない点が問題だと指摘。「Mastercardのオフィスに行って『こんにちは。この問題について市民として対話をしたいと思います』と言えるとは思いません」「性的なメディアで何が可能かを調停しているのは誰なのでしょう?私にはわかりません。彼らは哲学の授業を受けていましたか?女性学の学位を持っていますか?」と述べました。なお、Financial Timesが接触したクレジットカード会社などの規制担当者には哲学者はおらず、社会学者が1人、弁護士が数人いたとのことですが、彼らは自分自身を決済やリスクのマネージャー、あるいは商取引の促進者だと考えており、ポルノ規制の専門家だと自認している人はいなかったとのことです。

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in ネットサービス, Posted by log1h_ik

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