サイエンス

3Dプリンターで患者自身の細胞から「耳」を作成する最初の臨床試験に成功


3Dプリンターで人間の細胞や血漿(けっしょう)を用いて皮膚や骨を作ってケガの治療をしたり心臓肝臓を臓器移植の解決策としてプリントしたりと、医療分野でも3Dプリントの研究が進んでいます。2022年6月に新たに報告された研究では、生まれつき耳が変形していた女性に対し、3Dプリントされた耳を移植することに成功したことが発表されました。

3DBio Therapeutics and the Microtia-Congenital Ear Deformity Institute Conduct Human Ear Reconstruction Using 3D-Bioprinted Living Tissue Implant in a First-in-Human Clinical Trial | Business Wire
https://www.businesswire.com/news/home/20220602005051/en/3DBio-Therapeutics-and-the-Microtia-Congenital-Ear-Deformity-Institute-Conduct-Human-Ear-Reconstruction-Using-3D-Bioprinted-Living-Tissue-Implant-in-a-First-in-Human-Clinical-Trial

Doctors Transplant Ear of Human Cells, Made by 3-D Printer - The New York Times
https://www.nytimes.com/2022/06/02/health/ear-transplant-3d-printer.html

Woman receives 3D-printed ear made from her own cells - The Verge
https://www.theverge.com/2022/6/2/23151690/3d-printed-ear-transplant

臓器移植でのドナー不足問題を解決するために臓器を3Dプリンターを使って作り出す技術は近年精力的に研究されており、2019年4月には世界で初めて心臓を作ることに成功したほか、2019年12月には小さいながらも機能する肝臓の生成に成功したことが発表されました。

世界で初めて3Dプリンターと人間の細胞を使って心臓を作ることに成功 - GIGAZINE


医療向けの3Dバイオプリント・生体組織インプラントの研究開発を行う3DBIO THERAPEUTICSが2022年6月2日に発表したプレスリリースでは、人間の細胞をもとに3Dプリントされた耳を、生まれつき耳が変形した女性に移植することに成功したと報告されました。組織工学の技術では最初の臨床試験の一部としての成功例であり、同分野研究の大きな前進であると語られています。


アメリカでは毎年1500人ほどの新生児が、片方または両方の耳が発達していないか、完全に欠けている状態である小耳症を患って産まれてきます。通常、小耳症の患者は肋骨移植片または合成材料で作られた耳を使用していますが、3DBIO THERAPEUTICSの臨床試験に参加した11人は、自身の細胞から軟骨細胞を引き出し、それらの細胞を成長させて耳の形に3Dプリントした「AuriNovo」と呼ばれる生体組織を移植する手術を受けました。臨床試験はまだ進行中ですが、移植する耳は自身の細胞から作られたものであるため、拒絶反応などは起きにくいと移植を担当した医師は述べました。

実際に移植手術した20歳の女性は、生まれつき右耳が左耳より小さく変形していましたが、AuriNovoにより自身の細胞から自身の左耳に正確に一致する形で3Dプリントされた新しい耳の移植を2022年3月に受けました。新しい耳は移植後に軟骨組織を再生し続け、自然な耳の外観と感触を与えるとのこと。


ニューヨークタイムズによると、3DBIO THERAPEUTICSは独自の懸念事項により、3Dプリントした耳の技術について技術的な詳細を公開していません。そのため、外部の専門家による評価が困難になっているそうです。連邦規制当局が試験の全体像をチェックし、厳格な製造基準を設定した上で、研究が完了した後に医学雑誌に詳細が公開されると3DBIO THERAPEUTICSは述べています。

3DBIO THERAPEUTICSは将来的に、耳より複雑で直接人体に影響する鼻や脊椎に欠陥や変性を持つ人の治療や、最終的には肝臓や腎臓などの臓器も3Dプリント技術により移植する展望を語っています。実際に移植手術を行ったアルトゥーロ・ボニージャ医師は、「この研究がすべて計画通りに進んだ場合、小耳症の治療方法に革命をもたらすでしょう」と発言しました。

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in サイエンス, Posted by log1e_dh

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