生体を材料に3Dプリンターで皮膚や骨を作り出すことに成功、宇宙での医療技術が一歩前進へ
月や火星への進出が計画され、地球と全く環境が違う宇宙にはさまざまな危険であふれていることも指摘されています。そんな中、医療技術が限られている宇宙での皮膚移植・骨移植を行うべく、新たに「人間の血漿(けっしょう)を材料にして3Dプリンターで皮膚や骨を作り出す」技術が開発されました。
Upside-down 3D-printed skin and bone, for humans to Mars / Space Engineering ; Technology / Our Activities / ESA
http://www.esa.int/Our_Activities/Space_Engineering_Technology/Upside-down_3D-printed_skin_and_bone_for_humans_to_Mars
火星移住計画など宇宙への移住に向けて着々と技術が進歩していますが、いまだに人類が宇宙で生活することには多くの危険が伴います。一方で、宇宙船はスペースが限られているために必要な医薬品の全てを持っていくことができないという問題も。
例えば宇宙で火傷を負って皮膚移植が必要になったり、骨折の際に骨の移植が必要になったりすることも考えられます。このような場合の解決手段として考案されているのが3Dプリンティングによって皮膚や骨を作り出して移植する方法です。火傷や骨折などの処置として宇宙飛行士の体の一部を移植する場合、移植した部分が宇宙環境下で治癒しない可能性がありますが、3Dバイオプリンティングであればそのような二次的損傷を負わすことがありません。また3Dバイオプリンティングは血漿など宇宙飛行士本人の生体を材料とするので拒絶反応も起こらないとのこと。
このような背景から研究・開発を続けていたドレスデン工科大学病院の科学者と国際宇宙ステーション搭載を目的とした大型微小重力用3Dプリンタを開発するOHB System AGは、プロジェクト初の3Dバイオプリントされた骨と皮膚のサンプルを発表しました。
ドレスデン工科大学病院のNieves Cubo氏は「バイオプリントされた皮膚細胞は人間の血漿を栄養豊富な『バイオインク』として使用します。これはミッションを遂行するクルーたちが簡単に手に入れられるものです」「ただ血漿は液体なので地球と重力の異なる環境ではうまく機能しません。そこで私たちはメチルセルロースとアルギン酸を加えることで粘度を上げました。自給自足が求められる宇宙で、宇宙飛行士たちはこれらの物質を植物や藻類から手に入れることができます」と述べています。
バイオプリンティングが宇宙で実現可能かどうかを確かめるため、皮膚と骨のサンプルの出力は上下逆さまの状態で行われたとのこと。次回はマイナス1Gの環境下でより長い時間をかけて実験が行われる予定です。
実際に皮膚が出力されている様子は以下から見ることができます。
3D printing skin - YouTube
にゅるっと出力されているのが「バイオインク」。線を並べることで面を作り出し……
さらにバイオインクを重ねていくことで厚みのある皮膚を作っていきます。
最終的にこんな感じに。
また、骨を3Dプリンティングしている様子は以下から。
3D printing bone - YouTube
これは皮膚をプリントした時と同じ透明な素材と、白っぽく不透明な素材が使われています。
不透明な素材はバイオインクにリン酸カルシウムを加えて強度を上げたもの。骨組みは強度が求められるので、2種のバイオインクが使用されているわけです。
なお、上下逆さまで骨を3Dプリントしている様子は以下から確認可能です。
3D printing bone upside down - YouTube
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