サイエンス

人類の火星定住にはいろんな意味での危険が存在、しかしその先には「新しい人類」が生まれる可能性も


By European Southern Observatory

かつてはSF小説の中だけの世界と思われていた「火星旅行」または「火星移住」が、いよいよ現実の出来事として検討することが必要な段階に入っています。地球の重力の中で進化を続けてきたヒトなどの生き物が、地球の3分の1ほどの重力しかない火星で長期間にわたって生活して子孫を残すことにはまだまだ未知の部分が多いのですが、仮に火星で新しい命が誕生して成長することになると、その命は地球のものとは少し異なる様子を持つことになる可能性があります。

Biological and social challenges of human reproduction in a long-term Mars base - ScienceDirect
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0016328717300137

Populating a Mars Base Will Be Dangerously Unsexy
https://www.livescience.com/62680-mars-reproduction-challenges.html

Sex on Mars is going to be risky, but it could create a new human subspecies – BGR
http://bgr.com/2018/05/30/mars-sex-reproduction-human-colony/

火星の赤道面直径は6794.4kmと地球の半分ほどしかなく、質量は地球の約10分の1しかないため、火星の地表での重力の強さは地球の40%ほどしかありません。一方、人類を含む地球の生物は地球の重力、いわゆる「1G」の環境で長い時間をかけて進化を続けてきたため、地球よりも重力が弱かったり強かったりする環境で長く生活したときに何らかの影響が及ぶことは必至です。

実際に、無重力空間である国際宇宙ステーションに長期間滞在した宇宙飛行士には、筋力の衰えや骨密度の低下、さらには視力の低下や脳の形の変化などの変化が生じていることがわかっています。

無重力状態の宇宙に行くと人間の体にはこんな変化が起こる - GIGAZINE


そんな環境で人類は生活し、世代をつないでいくことができるのか、世界各国の科学者からなる研究チームは火星で生活を送るようになった時に考えられるさまざまな影響について調査を実施しました。その結果発表された論文によると、地球とは異なる火星の環境で生活を送ることは危険を含むものとなると考えられています。前述のように、地球よりも重力が弱い空間で長期にわたって生活すると人体にはさまざまな影響が及びますが、それに拍車をかけるのが免疫力の低下といえます。

免疫力が低下すると病気にかかりやすくなる上に、子孫を残していく上においても問題を生じさせることになります。女性はただでさえ妊娠すると免疫力が低下しますが、さらに弱い重力の環境下にいることでさらなる影響が加わると考えられています。論文ではその影響について「感染による中絶のリスクを悪化させると同時に、妊婦および妊娠未経験者における病気のまん延を促す可能性がある」と述べられています。


また、火星で人類が繁栄するためには、特にその初期段階においては「愛」という概念が二の次にされる可能性があることも指摘されています。限られた数のヒトが生活するコロニーが存続し、確実に個体を増やして育てるためには、ヒトは感情ではなく一種の生物として種の繁栄に寄与する必要性から逃れられません。その状況で誕生する新しい夫婦は、感情をベースに結ばれるのではなく、それぞれの個体としての適性の良さにもとづいて配偶者が選ばれることになるのかもしれません。

同様の理由で、地球とは状況が全く異なる火星では「倫理」の捉え方についても注意深くなることが求められる可能性があるとのこと。何よりもまず「生存・繁栄」が重要視され、個々のメンバーよりもコロニーの存続が優先される状況においては、生存できる可能性が低い胎児を諦めたり、終末期にある人の安楽死に関するよりリベラルな倫理観が求められる可能性があると論文では述べられています。さらに、個人に備わってる何らかの特徴が原因で、コロニーの存続を理由として子孫を残すことが認められないケースが生じることも否定できません。

By Futurilla

このように、人類にとってまだまだ未知の領域である火星には、現在の知識では想像もつかない状況に直面しそうです。しかし一方で、火星の環境で生まれて育ったヒトが、地球のヒトとは異なる特徴を備える生物として進化していくことも予測されています。これには、環境の変化に適応して新たな特徴を身に付けることのほかに、人為的に遺伝子を操作することで、火星の環境に適したヒトを作りだすということも含まれます。

そのようにして誕生した「火星ベビー」は、火星という環境に特化した人類として新たな進化の未知を歩むことになるはず。しかし一方で、自分の先祖がかつて暮らしていた地球では生きていけない「ヒト」として別の道を歩むことになるともいえるのです

By Aikawa Ke

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