「人が住んでいる環境が肥満に影響している」と主張する研究者が住環境の健康度を示す指数を考案
近年の研究では住んでいる環境が健康やメンタルヘルスに影響することが示されており、肥満や糖尿病のリスクもある程度は住環境に影響されます。そこで、ニュージーランド・カンタベリー大学の研究チームは「Healthy Location Index(健康な場所指数/HLI)」という指数を考案し、住環境が公衆衛生にどのような影響を及ぼすのかを調査しています。
The good, the bad, and the environment: developing an area-based measure of access to health-promoting and health-constraining environments in New Zealand
https://ij-healthgeographics.biomedcentral.com/articles/10.1186/s12942-021-00269-x
Our cities are making us fat and unhealthy – a 'healthy location index' can help us plan better
https://theconversation.com/our-cities-are-making-us-fat-and-unhealthy-a-healthy-location-index-can-help-us-plan-better-179763
ニュージーランドは世界有数の肥満大国であり、2021年のデータでは成人の34.3%が、2~14歳の子どもの約12.7%が肥満と報告されており、前年比で大幅に増加しています。また、これらのデータからは最も社会経済的に恵まれない地域に住む成人の肥満率が、最も恵まれた地域に住む成人より1.6倍も高いこともわかっています。
肥満は公衆衛生上の大きな懸念事項であり、全世界における年間死亡者の約5%が肥満が原因となって死亡しており、肥満の経済的悪影響は約2兆ドル(250兆円)と(PDFファイル)推定されています。こうした健康問題はしばしば「個人の責任」と考えられがちですが、カンタベリー大学の公衆衛生学部で上級講師を務めるマシュー・ホッブス氏らによると、肥満を自己責任とする考えは医療システム・政府・物理的環境の問題から目をそらすことになるとのこと。
ホッブス氏らは、1980年代以来の肥満の世界的増加は遺伝または生物学的要因だけでは説明できず、エネルギー密度が高く栄養価の低い食品や、不健康な行動が選択しやすくなったことが原因かもしれないとしています。「考えてみてください。現代の環境で健康を維持するには多くの努力が必要です」と述べ、便利な場所にファストフード店や酒屋があればそれを避けるのは難しく、自動車ではなく自転車で移動するのは大変だと指摘し、健康的な選択肢は不健康な選択肢より難しい場合が多いと主張しています。
こうした状況を変える必要があると主張するホッブス氏らは、「Healthy Location Index(健康な場所指数/HLI)」という指数を考案しました。HLIでは、ファーストフード店・テイクアウト店・コンビニエンスストア・酒屋・ギャンブル場からなる「健康を抑制する施設」と、緑地・水辺・運動施設・果物や野菜の販売店・スーパーマーケットからなる「健康を促進する施設」へのアクセスを定量化したデータからどれほど「健康によい場所か」を、地域ごとにランク付けするとのこと。
以下の図は、左上から「Auckland(オークランド)」「Wellington(ウェリントン)」「Christchurch(クライストチャーチ)」の3都市を、HLIに基づいてマッピングしたもので、ピンク色や紫色の地域はより健康に悪く、緑色に近いほど健康にいい地域です。ウェリントンは健康によい地域が多く、オークランドは健康によい地域と悪い地域のバランスが比較的取れており、クライストチャーチは健康に悪い地域が多いという傾向が見て取れます。
ホッブス氏らは、最も社会経済的に恵まれない地域では、健康を抑制する施設にアクセスするための距離が最も社会経済的に恵まれた地域の約半分であり、一部の地域でギャンブル場や酒場が過剰に増えていると指摘。「HLIが作成した全体像は、ファストフード店や酒屋といった健康を阻害する施設が、社会経済的に恵まれない地域に不均衡に多いことを強調するこれまでのエビデンスを裏付けています」と述べています。
地域ごとの社会経済的な差によって施設に違いが現れる現象は、環境法の実施および施行・開発・規制・政策の不平等に起因する「環境的不公正」だとホッブス氏らは主張。過去の研究からは、健康を抑制する施設へのアクセスが容易な環境に住むことが肉体や精神の健康に悪影響を及ぼすことが示されており、環境的不公正は問題だとしています。
ホッブス氏らは、「私たちは同じ地域に追加のファストフード店や酒屋が本当に必要なのかを尋ねなくてはなりません。政策立案者が規制を行ったり適切な施設を追加したりすることで、より健康に優しい都市を形成する方法を検討する上で、この指数が役立つことを願っています。結局の所、公衆衛生の保護と促進は政府の中核的な責任であり、そのような変化は個人・家族・コミュニティに委ねられるべきではありません」と述べ、政府主導の対策が必要だと主張しました。
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