太っていることが悪いのではなく「太っていることを蔑視する社会」に問題がある
by MrsBrown
肥満が社会問題として叫ばれている近年ですが、科学者であり作家のLinda Bacon氏とダイエット栄養士のAmee Severson氏は「肥満が問題視されることの問題」を指摘しています。肥満と罹患(りかん)率・死亡率の因果関係は科学的に不明瞭であるにも関わらず、肥満を非難し個人あるいは集団の「体」に不名誉を与え、恥だとみなすことは、太っている人々にとって有害であると共に、やせている人に恐怖や偏見を植え付けるとのこと。「体」を対象にした新しい差別としての「肥満」について、二人の専門家が主張しています。
Fat Is Not the Problem--Fat Stigma Is - Scientific American Blog Network
https://blogs.scientificamerican.com/observations/fat-is-not-the-problem-fat-stigma-is/
そもそも「肥満」という言葉は身長と体重によって求められるボディマス指数(BMI)に基づき、健康かどうかではなく人の体の外観に基準としたカテゴリです。もともとBMIは集団的な統計分析に用いられることを目的としており、健康上の問題を判断するためのものではありませんでした。また、2013年にアメリカ医師協会は肥満を疾患だと宣言していますが、これに対しては当時から「肥満と罹患(りかん)率、死亡率の間には因果関係がない」という指摘があり、肥満を疾患とみなすことで偏見が強まり、不要な治療が行われる事態を導くことになるという点が危険視されていました。
これまでの研究で肥満の予防法や治療法は確立されておらず、減量の処方箋が逆に体に害を及ぼしたり体重を増加させる結果に終わることも示されています。「太っていることは体に悪い」と言われながらも、現実の調査では太っている人の方が長生きすることが示されているのも事実です。しばしば体重が重い人々の間で病気が見つかりますが、これは体重が病気の原因であるということを意味しておらず、「心臓病の原因を太っていることだと決めつけることは、肺がんの原因が黄色い歯にあることだと決めつけるようなものだ」と二人の専門家は述べています。
by Carles Rabada
「体重」に焦点を当てて個人を責めることは、より重要な問題から目を逸らすことにつながります。健康に対して大きな影響を及ぼすのは個人の行動よりも、人々の住んでいる場所であり、職業であり、娯楽のあり方といった「環境」です。もちろん、健康的な行動を取ることは重要ですが、公衆衛生を真の意味で向上させるには、全ての人が自分自身に価値を感じ、よりよい生活を自分自身で作り出せる機会を持つことが必要があります。そのためには「脂肪恐怖症」と戦う必要があるとのこと。
医学や文化が「肥満」を排除しようとするとき、「肥満」が示すものは脂肪細胞ではなく、「太った人々」になっているというのが現状です。体を対象にした偏見は新しいものではなく、人種差別や奴隷制度などがこれまでも生み出されてきました。太った人々が雇用の機会を受けにくく、昇進しにくく、病気の治療においてバイアスを受け、いじめられ、社会から排除されるという事態は無視できるものではありません。太っていることを蔑視し、太っていることを「恐怖」だとみなす文化が、太っている人を「道徳的に劣っている」とみなして治療が必要とされる状況を生み出しています。
by mojzagrebinfo
Bacon氏とSeverson氏は太ることに恐怖を感じたり、太っていることを恥だと感じている人に対し、「それはあなたの個人的な失敗ではなく、私たちの文化があなたに失敗させているのです。あなたの体を非難するような社会で、体に感謝することは簡単ではありません」と語り、自分を受け入れてくれるコミュニティを探すことを推奨しています。「全ての体が尊重され、『自分の場所だ』と感じられる世界に変わるまでの間は、自分の居場所、避難場所を見つけることが重要です」と二人の専門家は語りました。
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