サイエンス

肥満の人の体重を平均で約15%も減少させる薬が発見される


肥満はさまざまな生活習慣病につながる可能性があるほか、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のリスクを高めると指摘されています。世界16カ国に住む肥満の人を対象にした研究で、すでに2型糖尿病の治療に用いられるセマグルチドという薬が体重を大幅に減少させるとの結果が報告されました。

Once-Weekly Semaglutide in Adults with Overweight or Obesity | NEJM
https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2032183

'Gamechanger' drug for treating obesity cuts body weight by 20 percent -- ScienceDaily
https://www.sciencedaily.com/releases/2021/02/210211091352.htm

'Game-Changer' Drug Promotes Weight Loss Like No Medicine Ever Seen, Scientists Say
https://www.sciencealert.com/game-changer-drug-promotes-weight-loss-like-no-medicine-ever-seen-scientists-say


肥満の治療には運動や食生活への持続的な介入が必要とされていますが、必ずしも大きな効果を達成できるとは限りません。また、外科的な手術によって脂肪を切除する方法もありますが、これは侵襲的な手法であるため体の負担やリスクも大きいものです。

そこでイギリスの研究チームは、2型糖尿病の治療薬として用いられているセマグルチドが持つ減量効果を調べるため、アジア・ヨーロッパ・南北アメリカ大陸の16カ国に住む1961人の肥満の成人を対象に実験を行いました。今回の実験で肥満と認定されたのは、いずれもボディマス指数(BMI)が30を超えている人々だったとのこと。なお、厚生労働省はBMI22が標準で、25以上を肥満と定めています

被験者はセマグルチドを服用する実験群と偽薬を服用する対照群に分けられ、実験群は週1回、2.4mgのセマグルチドを皮下注射で投与しました。また、対照群を含めた全ての被験者は4週間ごとに登録栄養士と対面または電話でカウンセリングセッションを行い、低カロリーダイエットや運動などのガイダンス、および動機付けが提供されました。


68週間にわたる実験の結果、セマグルチドの投与を受けた実験群では平均して15.3kg、割合にして14.9%の減量が達成されました。対照群でも体重の減少が報告されたものの、減少幅は平均して2.6kgにとどまったとのこと。

実験群では体重減少に成功する割合が対照群より圧倒的に多く、5%以上の体重減少を記録した被験者は実験群で86.4%だったのに対し、対照群では31.5%でした。20%以上の減量に成功した被験者も実験群では30%以上に達し、外科的介入に近い効果をもたらしたと研究チームは述べています。また、実験群では体重だけでなく心臓病や糖尿病のリスク因子である血中脂肪や血糖、血圧などが減少し、生活の質も改善したと報告されています。

ユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドンで肥満を研究しているRachel Batterham教授は、「これほどの減量効果をもたらす薬は他にありません。これは本当に画期的なことです。人々は初めて、減量手術によってのみ可能だったものが薬で達成できるようになりました」とコメント。論文の筆頭著者であるリヴァプール大学のJohn Wilding教授は、「これは肥満の治療における重要な進歩です。セマグルチドはすでに承認されており、糖尿病治療のために低容量で臨床的に使用されています」と述べました。


セマグルチドは食後に腸から放出されるグルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)というホルモンと類似した化合物を持っており、空腹感を減らして満腹感を高め、食事の量を抑えることでカロリー摂取量を減らすとされています。今回の実験では、実験群と対照群の両方で悪心や下痢といった症状が現れ、対照群で5人、実験群で60人の被験者が途中で治療を中止したとのこと。また、セマグルチドの投与を終了した後に被験者の体重がどうなるのかは記事作成時点でわかっておらず、治療後に再び体重が増加したと主張する被験者もいるそうです。

キングス・カレッジ・ロンドンのThomas Sanders名誉教授は、「セマグルチドのような薬は、短期的には重度の肥満患者において急激に体重を減少させるのに役立つかもしれませんが、それほど重度ではない肥満を予防または治療するための特効薬ではありません。定期的な運動や食事のカロリー摂取量の制限など、行動の変化を促す公衆衛生対策が依然として必要です」と述べました。

研究に資金提供を行ったデンマークの製薬企業・ノボノルディスクは、すでに肥満治療薬としてセマグルチドを販売する許可を、国際的な保健規制当局に申請しているとのことです。

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in サイエンス, Posted by log1h_ik

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