小説家の「認知症の兆候」が診断されるずっと前から小説の中に現れていたとの研究結果

「ディスクワールド騒動記」「遠い星からきたノーム」などの小説で知られるベストセラー作家のテリー・プラチェット氏は2007年、若年性のアルツハイマー病を発症していることを公表しました。プラチェット氏がアルツハイマー病を公表する以前から、小説の中に「認知症の兆候」が現れていたとする研究結果が報告されています。
Detecting Dementia Using Lexical Analysis: Terry Pratchett’s Discworld Tells a More Personal Story | MDPI
https://www.mdpi.com/2076-3425/16/1/94

Terry Pratchett’s novels may have held clues to his dementia a decade before diagnosis, our new study suggests
https://theconversation.com/terry-pratchetts-novels-may-have-held-clues-to-his-dementia-a-decade-before-diagnosis-our-new-study-suggests-273777
認知症は一般に「記憶に問題が生じる」と言われますが、これはあくまで認知症による広範な認知機能低下による一側面です。記憶障害が顕著になる前の認知症の初期段階では、注意力・知覚・言語能力などに影響が及ぶことが多いものの、ストレスや加齢といったその他の原因だと見なされがちだとのこと。
イギリスのラフバラー大学で心理学の上級講師を務めたトーマス・ウィルコックソン氏らの研究チームは、「認知症の初期症状が言語能力に現れるのであれば、後に認知症になった小説家の作品に兆候が存在するのではないか」と考えて研究を行いました。
ウィルコックソン氏らは、「言語は認知の変化を垣間見るためのユニークな窓を提供します。私たちが選ぶ言葉や語彙(ごい)の多様性、そして描写を構成する方法は脳の機能と密接に関連しています。言語使用における小さな変化でさえ、根底にある神経学的変化を反映している可能性があります」と述べています。
研究チームが今回取り上げたのは、イギリスの著名な作家であるテリー・プラチェット氏です。ユーモアのあるSFやファンタジー小説で愛されていたプラチェット氏は、1990年代イギリスにおける代表的なベストセラー作家であり、2007年には全世界の売上が5500万部を達成しました。そんなプラチェット氏は2007年にアルツハイマー病であることを公表した後、認知症の研究や啓発活動に力を入れ、2015年に感染症のために亡くなりました。

by Wikimedia Commons
研究ではプラチェット氏の代表作である「ディスクワールド」シリーズの33作品が用いられました。研究チームは作品に使用されている語彙に焦点を当てて、使われている名詞・動詞・形容詞・副詞をトークン化して多様性を分析しました。
その結果、プラチェット氏が中年期以降に執筆した作品では、加齢とともに名詞や形容詞の多様性が有意に減少していることが判明しました。トーマス氏らは、「プラチェット氏の後期の小説全体を通して、彼が用いる形容詞の多様性は明らかに、そして統計的に有意なほどに減少していきました。描写する言葉の豊かさは徐々に狭まっていったのです。これは読者が必ずしも気付くようなものではなく、質の急激な低下を示すものでもありませんでした。むしろこれは、詳細な言語分析を通じてのみ検知できる、微妙で漸進的な変化でした」と述べています。
特に重要だと研究チームが指摘するのが、プラチェット氏が正式にアルツハイマー病であると診断される10年前に出版された「The Last Continent(最後の大陸)」で、始めて語彙の顕著な減少がみられたという点です。これは、認知症の目に見えない前兆が何年も前から生じていた可能性を示唆しています。
以下のグラフは、プラチェット氏の作品における語彙の多様性を示したもので、縦軸が語彙の多様性、横軸がプラチェット氏の年齢を表しています。それぞれの線は形容詞(赤色)・副詞(緑色)・名詞(青色)・動詞(紫色)を意味しており、形容詞と名詞の多様性が徐々に減少していることがわかります。

今回の研究結果からは、人々が残したテキストデータを分析することで認知症の兆候を早期に発見できる可能性が示唆されています。トーマス氏らは、「重要なのは言語データが既に存在していることです。人々は電子メール・レポート・メッセージ・オンラインコミュニケーションを通じて膨大な量の文書を作成しています。プライバシーと同意を適切に保護すれば、文章スタイルの微妙な変化が、日常生活の機能に影響が出るずっと前に認知機能低下を早期に検知するのに役立つ可能性があります」と述べました。
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in サイエンス, 創作, Posted by log1h_ik
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