サイエンス

認知症の予測にはうつ病ではなく「無気力」が役立つとの指摘


医療現場では、うつ病はしばしば認知症の危険因子と考えられていますが、新たに発表された研究により、「うつ病ではなく『無気力』が認知症の予測に役立つ」ことが判明しました。

Apathy, but not depression, predicts all-cause dementia in cerebral small vessel disease | Journal of Neurology, Neurosurgery & Psychiatry
https://jnnp.bmj.com/content/early/2020/07/10/jnnp-2020-323092

Apathy not depression helps to predict dementia -- ScienceDaily
https://www.sciencedaily.com/releases/2020/07/200713120022.htm

We tagged Andean condors to find out how huge birds fly without flapping
https://theconversation.com/we-tagged-andean-condors-to-find-out-how-huge-birds-fly-without-flapping-142472

認知症はさまざまな要因が引き金となって発生しますが、その中でも主要なものの1つが(PDFファイル)脳小血管病(small vessel disease/SVD)です。中高年の脳をMRIで調べた2001年の研究では、60~90歳の人の95%にSVDの兆候が見られたと報告されています。

また、SVDを発症した患者は、「目標のある行動の減少」として定義される神経精神症状である「無気力」を呈することがあります。SVDはさらに、別の症状としてうつ病を呈することがあるほか、無気力とうつ病の症状には重なる部分があるものの、近年は「SVD患者の無気力とうつ病は別の症状」だと考えられているとのことです。


イギリスのケンブリッジ大学臨床神経科学科の研究者であるJonathan Tay氏らの研究チームは、イギリスとオランダで行われたSVDに関する研究2件を精査し、SVDに関する研究2件を精査してSVDと認知症リスクの関係について検証しました。

研究チームが分析を行った研究のうち、1つはロンドンにある3つの医療機関が行ったもので、もう1つはオランダのラドボー大学が行った研究でした。いずれの研究でも、複数年にわたってSVD患者における認知症、無気力、抑うつの症状の有無が評価され、2つの研究で被験者となったSVD患者は合計で450人以上に上るとのこと。


Tay氏らが2つの研究を分析した結果、これまで認知症の危険因子とされてきたうつ病は認知症リスクに影響を与えていなかったことが判明。一方、無気力と認知症の関係性については、年齢や学歴、認知機能といったその他の認知症の危険因子の影響を調整した後にも維持されていたとのことです。

Tay氏は「高齢者のうつ病と認知症の関係については、これまで多くの研究がなされてきました。これまでの研究とは相反する私たちの研究は、うつ病と無気力が混同されていることが原因となっている可能性を示唆しています」と話しました。


研究チームは今回の研究結果を、「無気力と認知症や(PDFファイル)血管性認知障害の関係についてのさらなる研究の基礎となるもの」と位置づけています。また、研究チームによると、SVDにより意欲や認知機能が損なわれる背景には、脳の白質に存在する神経ネットワークの問題があることが分かってきているとのこと。高血圧や糖尿病によりSVDが引き起こされると、神経ネットワークに障害が発生し、そのことが無気力や認知症の早期発症につながると、研究チームは考えています。

Tay氏は、「無気力と認知症の関係が示された今回の研究結果は、無気力が認知症の危険因子だというよりは、むしろ『無気力は白質にあるネットワーク損傷の初期症状』であることを示唆しています。これらの症状の関係をより深く理解することで、将来的にこの分野における診断や治療に大きく役立つ可能性があります」と話しました。

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in サイエンス, Posted by log1l_ks

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