「年を取ると注意力が落ちる」との常識を覆す実験結果が報告される
一般的に、年を取ると物忘れが激しくなったり認知機能が衰えたりすると言われています。しかし、日常生活を送ったり仕事をしたりする上で重要な「注意力」を細かく分けて、それぞれの能力と加齢の影響を分析した研究により、年を重ねることで向上する能力もあることが分かりました。科学者らはこの研究結果を、「加齢や病気による脳の衰えを防ぐ研究につながるかもしれない」と位置づけています。
Evidence that ageing yields improvements as well as declines across attention and executive functions | Nature Human Behaviour
https://www.nature.com/articles/s41562-021-01169-7
Key Mental Abilities Can Actually Improve During Aging | Georgetown University Medical Center | Georgetown University
https://gumc.georgetown.edu/news-release/key-mental-abilities-can-actually-improve-during-aging/
Some Key Mental Abilities Seem to Improve as We Get Older, Proving Aging Isn't All Bad
https://www.sciencealert.com/aging-isn-t-all-bad-some-key-mental-abilities-improve-as-we-get-older
日本で特に深刻な問題となっている高齢化は、アメリカなどの先進国でも急激に進行しつつある世界的な現象です。そこで、ポルトガル・リスボン大学のジョアン・ベリッシモ助教授らの研究チームは、58歳から98歳までの被験者702人を対象に、加齢に伴う注意力の変化を調べる研究を行いました。
研究チームが、PCの画面に出る矢印の方向をキーボードで答える「注意ネットワークテスト」を使って被験者の注意力と実行力に関係する3つの認知機能を調べたところ、刺激に備えて準備する「警告(alerting)」という機能は、加齢とともに低下することが確認されました。一方、特定の情報を取捨選択する「定位(orienting)」と、刺激への反応を意図的にコントロールする「実行抑制(executive inhibition)」という機能は、年齢が上がるにつれて向上していたことが判明しました。
ベリッシモ助教授は、今回の研究で注目した3つの機能の違いについて、「例えば車を運転している時、交差点にさしかかる前にその心の準備をするのが『警告』で、歩行者などの予期せぬ動きに注意を向けるのが『定位』です。また、鳥や看板など気が散るものを頭から排除して、運転に集中できるようにするのが『実行抑制』です」と説明しています。
研究チームは、加齢に伴って「定位」と「実行抑制」の能力が向上していたのは、生涯を通じてこれらの能力が訓練されたことによる効果が、脳の衰えを上回っているからではないかと推測しています。一方、「警告」は訓練では向上しないため、脳の衰えに伴って反応が鈍くなってしまうと考えられているとのこと。
この研究結果について、アメリカ・ジョージタウン大学の神経学者であるマイケル・ウルマン氏は、「これまで注意力や実行機能に関する能力は、年を取ると全体的に低下すると考えられてきました。しかし、大規模な実験の結果、一部の重要な要素は生涯を通じた訓練により向上することが示されました。今後、注意力や実行機能を向上させる訓練の研究が進展すれば、加齢や疾病による脳の衰えを防ぐこともできるようになるのではないかと考えています」と話しました。
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