慢性的な低血圧が認知症の原因になっている可能性が指摘される
by Martin Péchy
脳機能が低下して認知機能に支障が出てしまう認知症は、年齢を重ねるにつれて発症しやすくなり、「長生きする以上は認知症になることも避けられない」と思われがちです。しかし、「年齢を重ねても認知症にならない人も多い」と、ビンガムトン大学で臨床科学について研究するKenneth McLeod教授は指摘し、「慢性的な低血圧が認知症の原因の一つかもしれない」と主張しています。
Low blood pressure could be a culprit in dementia, studies suggest
https://theconversation.com/low-blood-pressure-could-be-a-culprit-in-dementia-studies-suggest-122032
一般的には高血圧がさまざまな生活習慣病を引き起こすとして問題視されていますが、近年の研究では、低血圧も脳に関連する病気のリスクを高める可能性が示唆されています。最大で27年間にわたって2万4000人以上を追跡した2017年の研究では、低血圧が認知症の発症を予測する重要な因子であることが示されました。この研究によると、年齢・性別・体重や心血管疾患・腎臓病・糖尿病などの有無によらず、低血圧が認知症のリスクを高めることが実証されているとのこと。
McLeod氏は、低血圧が座っている時や立っている時に脳へ送られる血流の減少に関連すると指摘。McLeod氏をはじめとする多くの研究者は、脳血流の不足が認知症をはじめとする脳機能障害を引き起こす可能性があると考えており、医療従事者は個人の血圧が低すぎる場合、何らかの介入をする必要があるかもしれないと主張しています。
by Pixabay
低血圧と認知症の関連について調査しているMcLeod氏らの研究チームは、アメリカ食品医薬品局(FDA)によって承認された(PDFファイル)認知機能測定ツールを用い、50歳以上の人々を対象にした認知機能テストを行いました。
被験者はいずれも高校卒業以上の教育を受けた人々で、それぞれ0~100のスコアで認知機能が評価されました。スコアが75以上であれば認知機能に問題はありませんが、スコアが50~75の間だと「認知機能が正常な範囲を下回っている」と判断され、認知症を発症するリスクが高いと評価されます。また、スコアが50未満であれば、その人は認知症の症状が出ているとみなされます。
McLeod氏らが発表した過去の研究では、特に心臓が収縮していない時の血圧である拡張期血圧(数値が低い方の血圧)が、認知機能の予測因子として優れていることが示されていたため、研究チームは、認知機能測定ツールによるスコアと参加者がストレスのない環境で座った安静時に測定した血圧を比較しました。その結果、拡張期血圧が正常以下の被験者のうち、実に4分の3ほどが平均を下回る認知機能だったことが判明しました。
by Matthias Zomer
アメリカに住む高齢者の多くは平均して1日9時間以上座っており、安静時の血圧は多くの参加者にとって「日常的な血圧」であるといえます。一方で、一般的には拡張期血圧が60mmHg(水銀柱ミリメートル)を下回る人が低血圧と診断されますが、McLeod氏は「拡張期血圧が80mmHgを下回る程度の人ですら、直立すると認知機能が著しく低下することがわかった」と述べています。今回の実験結果は若者における低血圧と認知機能の関連を調べた研究の結果とも一致しているとのこと。
拡張期血圧の低下は薬物使用や心不全の結果として起こるケースもありますが、多くの場合では1回の心拍で十分な量の血液が送り出せないことが原因です。1回の心拍で送り出せる血液量の低下は、下半身から心臓に戻ってくる血液が少ない場合に発生するとのこと。
下半身から心臓へ血液を送り返す上で重要なのが、第二の心臓とも呼ばれるふくらはぎに存在する「ヒラメ筋」という筋肉です。McLeod氏らの研究チームは10年にわたる研究の中で、ヒラメ筋が座った状態での血圧を維持するために重要な役割を果たすことを発見しており、「ヒラメ筋を鍛えることは正常な血圧を保つ効果的な戦略です」とMcLeod氏は指摘しています。しゃがんだりつま先立ちをしたりすることでもヒラメ筋を強化することが可能ですが、これには非常に長い時間と労力がかかるとのことで、McLeod氏は電気的・機械的刺激でもヒラメ筋による血液還流を著しく増加させられると述べています。
by composita
予備的な臨床研究では、数カ月にわたって毎日ヒラメ筋を刺激することで、安静時の拡張時血圧を上昇させ、加齢に伴う認知機能の低下を改善できるという確証が得られたとMcLeod氏は主張。医療コミュニティが慢性的に低い血圧に介入することで、認知症の進行を防いだり遅らせたりできる可能性があるとMcLeod氏は述べました。
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