サイエンス

喫煙は新型コロナウイルス感染症にどのような影響をもたらすのか?


新型コロナウイルス感染症(COVID-19)と喫煙の関係にはパラドックスが存在し、「喫煙がCOVID-19を重病化させる」可能性を示す研究結果がある一方で、喫煙者の方が非喫煙者に比べてCOVID-19の症例数が少ないという研究結果も報告されています。広島大学放射線生物学研究所の准教授である谷本圭司氏らは、なぜこのようなパラドックスが起こるのかを調査した実験結果を発表しています。

Drugs that mimic effects of cigarette smoke reduce SARS-CoV-2's ability to enter cells
https://medicalxpress.com/news/2021-09-drugs-mimic-effects-cigarette-sars-cov-.html

【研究成果】胃潰瘍治療薬やタバコの煙から抽出した物質に意外な効果~新型コロナウイルスのヒト細胞への感染を抑制~ | 広島大学
https://www.hiroshima-u.ac.jp/rbm/news/66158

タバコに含まれる多環芳香族炭化水素(PAHs)と呼ばれる物質は、芳香族炭化水素受容体(AhR)と呼ばれる受容体と結合し、AhRを活性化させることで知られています。哺乳動物細胞内にある受容体の一種であるAhRは細胞の表面および内部に存在しており、転写因子として、特定遺伝子の発現を増加または減少させることができます。

一方、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)は、人間の細胞に存在する受容体ACE2と結合することで感染します。このことから研究チームは、PAHsがAhRを活性化させることで、ACE2の遺伝子発現量が変化するのかどうかを調査しました。

研究チームはまず、さまざまな細胞株おけるACE2の遺伝子発現レベルを調査し、口腔(こうくう)、肺、肝臓に由来する細胞が最も高いACE2発現を示すことを突き止めました。

これを踏まえ、研究チームは高レベルでACE2発現があった細胞を、さまざまな用量のタバコ煙抽出物(CSE)に24時間さらしました。この結果、肺と肝臓の細胞において、CSEへの暴露が大きいほどACE2の発現が抑制されるという、濃度依存的な反応が観察されたとのこと。ただし、口腔については濃度依存的なACE2発現の抑制は見られなかったそうです。


また、ACE2に対するAhRの関与についてより直接的に調べるため、研究チームがAhRを活性化する化合物のうち、食物などに含まれるトリプトファンの代謝物や胃潰瘍治療薬として使用されるプロトンポンプ阻害薬の効果を肝臓の細胞で確かめたところ、これらによってACE2発現量が一過性に抑制されることが明らかになりました。


さらに研究者がRNAシーケンシングを行ったところ、CSEは、AhRによって制御される「細胞内の重要な信号伝達プロセスに関連する遺伝子」の発現を増加させることが判明。これらのデータから研究チームは、AhR活性化因子によってACE2遺伝子の発現が用量依存的に強く阻害されると報告しています。


上記の研究結果をもって「喫煙がCOVID-19の予防になる」と結論づけることはできませんが、この研究結果から、COVID-19のメカニズムをさらに深く理解し治療薬開発に役立てることができると考えられています。研究チームはこの発見を元にCOVID-19の新薬開発に向けて前臨床および臨床試験を進めているとのことです。

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in サイエンス, Posted by darkhorse_log

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