サイエンス

世界の「ワクチン接種率格差」はどうなっているのか?


日本でも新型コロナウイルスワクチンの配布が進んでおり、2021年6月17日からは大規模接種センターで行うワクチン接種の対象年齢が「65歳以上のみ」から「18歳から64歳も含む」に拡大しました。こうした現況から、日本では時間がたてば多くの人がワクチンを接種できるようになるという見通しですが、世界には医療関係者ですらワクチンを接種していない国が多数残されています。

Coronavirus (COVID-19) Vaccinations - Statistics and Research - Our World in Data
https://ourworldindata.org/covid-vaccinations

Global herd immunity remains out of reach because of inequitable vaccine distribution – 99% of people in poor countries are unvaccinated
https://theconversation.com/global-herd-immunity-remains-out-of-reach-because-of-inequitable-vaccine-distribution-99-of-people-in-poor-countries-are-unvaccinated-162040

日本では、ワクチンの1日の可能配送量が上限に達したという理由から、職域接種の新規受付を一時休止せざるを得ないほど急速にワクチン接種が進んでいます。6月22日時点では、全人口の約18.89%が1回目の新型コロナウイルスワクチン接種を終えており、約8.16%が計2回のワクチン接種を完了しています。


そのほか、日本における新型コロナウイルスワクチンの接種状況を詳しくまとめているページが以下。

日本国内のワクチン接種状況 副反応の情報 新型コロナウイルス|NHK特設サイト
https://www3.nhk.or.jp/news/special/coronavirus/vaccine/progress/

6月21日時点で世界人口の約10.04%がワクチン接種を完了したとされていますが、この10.04%はほぼ全てが日本のような先進国の人々。貧困や病気など地球規模の問題を専門とするオンラインニュースサイトOur World in Dataによると、低所得国において1回目の接種を済ませた人はわずか0.9%という状況です。

アメリカン大学でヘルスケアの不平等問題について研究するマリア・デ・イエス准教授によると、このような「ワクチン格差」の背景には先進国が「ワクチンをあらかじめ買い占めておく」という戦略を採っているという問題があるとのこと。一例ではアメリカは12億回分の新型コロナウイルスワクチンを確保していますが、これは全国民がワクチン接種を終えた後、さらに全国民の80%がもう1度ワクチン接種を完了できるという量です。カナダに至っては3億8100回分、全国民がワクチン接種を5回も完了できる分量です。

このように、「ワクチン調達量」という観点で世界を色分けしたマップが以下。赤色に近ければ近いほど全国民に必要なワクチンを確保できていないことを意味しており、緑色が濃ければ濃いほどワクチンが余剰していることを、灰色はデータ不足を意味しています。アメリカ大陸のほとんどの国や、日本、オーストラリアなどが全国民に必要な分を上回る量のワクチンを確保していることがわかります。なお、ロシアと中国が赤色になっているのは、この2国は自国製ワクチンを使っており、なおかつその接種率について公開していないため。


ワクチン格差を是正しないまま放置すると、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による死者がより増えると予想されています。2020年にノースイースタン大学の研究チームが発表した(PDFファイル)論文によると、各国が協力して公平なワクチン配布計画を世界的に進めた場合は死者が61%減る一方、先進国が自国の接種を優先した場合には死者の減少率が33%にとどまるというシミュレーション結果が得られています。

こうした事態の好例としてイエス准教授が挙げているのがAIDSです。AIDSは1990年代に有効な抗レトロウイルス薬が登場し、先進国では数百万人という命が救われました。しかし、こうした抗レトロウイルス薬は非常に高価で、最初の世界初の抗HIV薬であるジドブジンは1年間の必要費用が当時の価格で約8000ドル、現代のレートに換算すると1万9000ドル(約210万円)でした。さらに値崩れに対する懸念から製薬会社は抗HIV薬の価格を国際的に統一したため、貧困国は手が出せずじまい。特にAIDSが猛威を振るったサハラ砂漠以南のアフリカ諸国では2000年時点で約2200万人がAIDSに感染しており、約3分の2の地域で成人のHIV陽性率が7.5~10%という窮状でした。


また、ワクチンが行き届かない国が残されている場合、「変異株が発生する」という可能性が存在し続けます。新型コロナウイルスの感染が長期化した地域では、ウイルスが変異する可能性が高くなり、より感染力が強かったり致死性が高かったりする「攻撃的な新型コロナウイルス変異株」が生み出されてしまうという懸念があります。

新型コロナワクチンを接種しない国があるとどうなるのか? - GIGAZINE


イエス准教授は裕福で高度なワクチン接種を受けた国々は、世界的なワクチン接種率を高める責任を負い始めていると述べ、ワクチン製造インフラストラクチャを世界に構築して世界中で生産を拡大する必要があると主張しました。

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in サイエンス, Posted by darkhorse_log

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