アメリカのハチミツには冷戦期の核実験による放射性物質がまだ含まれている


アメリカを盟主とする西側諸国の資本主義・自由主義陣営と、ソビエト連邦を盟主とする東側諸国の共産主義・社会主義陣営が対立した冷戦により、1950~60年代には大規模な核実験が繰り返されました。そんな冷戦に行われた核実験が原因で「アメリカのハチミツには21世紀に入っても放射性物質が含まれている」と、アメリカのバージニア州にあるウィリアム・アンド・メアリー大学の研究により明らかになりました。

Bomb 137 Cs in modern honey reveals a regional soil control on pollutant cycling by plants | Nature Communications
https://www.nature.com/articles/s41467-021-22081-8

Cold War legacy: A spring break assignment evolves into investigation of cesium-137 in U.S. honey | William & Mary
https://www.wm.edu/news/stories/2021/cold-war-legacy-a-spring-break-assignment-evolves-into-investigation-of-cesium-137-in-u.s.-honey.php

American Honey Still Contains Radioactive Fallout From Nuclear Tests Decades Ago
https://www.sciencealert.com/american-honey-still-contains-radioactive-fallout-from-nuclear-tests-decades-ago


ウィリアム・アンド・メアリー大学の地球環境科学者であるJim Kaste准教授は2017年の新入生向けセミナーで、数十年前の核実験で放出された放射性物質が現代の食品に含まれていることを示す目的で、「地元の食品を持ち帰って大学に持ってくる」という課題を与えました。Kaste氏は、新入生たちが持ち帰ったリンゴ・メープルシロップ・ピーカンナッツといった食品をガンマ線検出器で調査し、食品に含まれるセシウム放射性同位体セシウム137を測定しました。

セシウム137はウラン235などの核分裂によって生成される放射性物質であり、環境中に存在するセシウム137のほとんどが核実験により人為的に生成されたものです。Kaste氏の予想通り、生徒たちが持ち寄った食品からはかすかなセシウム137が検出され、数十年前の核実験で放出された放射性物質が依然として食品中に含まれていることが示されたとのこと。

ところが、Kaste氏は「ノースカロライナ州の市場で購入したハチミツ」をガンマ線検出器で測定した際、想像以上に高いセシウム137が検出されたことに動揺したそうです。「容器に何かが起きたのか私の検出器が壊れたのかと思ったので、もう一度測定しました。測定値は再現されました。ハチミツは他のどの食品よりも100倍放射線濃度が高かったのです」と、Kaste氏は述べています。


一体なぜハチミツが非常に高いセシウム137を含んでいるのかを調べるため、Kaste氏の研究チームはアメリカ東部にある市場や養蜂場から、純粋でろ過されていないハチミツのサンプルを収集して分析を行いました。テストの結果、メイン州からフロリダ州にかけて収集した122のサンプルのうち、なんと68のサンプルからセシウム137が検出されたとのこと。

今回検出されたセシウム137は、アメリカやソ連によって冷戦期に行われた核実験の痕跡です。当時の核実験は、その多くが太平洋のマーシャル諸島や北極海のノヴァヤゼムリャで行われたほか、ニューメキシコ州ネバダ州でも行われました。

合計で500回を超える核実験によって人類の歴史上で最も多くの放射性物質が大気に放出されましたが、全ての爆発で等しい量の放射性物質が放出されたわけではないそうで、Kaste氏は「太平洋とロシアの実験場で生成されたセシウム137の量は、ニューメキシコ州やネバダ州の爆破によって生成された量より400倍も多かったことがわかっています」とコメントしています。一体どの核実験による放射性物質がアメリカの食品に含まれているのかは不明ですが、爆発で放射性物質が大気中にまき散らされ、中には成層圏にまで到達して風にのって広がるケースもあったとのこと。


大気中のセシウム137が地上に到達する主な要因は降雨ですが、ハチミツ中に含まれるセシウム137が多い地域は特に年間降水量が多いというわけではありませんでした。むしろ、高濃度のセシウム137を含むハチミツは、土壌に含まれるカリウム濃度が低い地域で生産されていることが判明したそうです。

カリウムは植物にとって主要な栄養であり、植物内における代謝などに重要な役割を果たしています。セシウム原子とカリウム原子には多くの類似点があるそうで、土壌に含まれるカリウムが少ない場合、植物はカリウムの代替としてセシウムを吸収することがあるとのこと。その結果、セシウムの放射性同位体であるセシウム137が植物に吸収されてミツに含まれ、それをミツバチが集めることでハチミツ中のセシウム137濃度が高くなると研究チームは説明しています。


植物が土壌中のセシウム137を吸収する現象はチェルノブイリ原発事故などでも確認されていましたが、今回の研究では数十年前の核実験で生成された放射性物質が、実験場から数千キロ以上も離れた場所でいまだに影響を及ぼしていることが示されました。幸いなことに、ハチミツから検出されたセシウム137はどれも人体に有害なレベルではないそうで、放射性物質を恐れてハチミツを避ける必要はないとのこと。Kaste氏も今回の研究をきっかけにハチミツを恐れるのではなく、むしろ以前よりハチミツを食べるようになったと述べています。

しかし、人間には影響がなくても、他の生物には微量のセシウム137が有害かもしれません。近年ではミツバチの個体数減少が大きな問題となっており、Kaste氏は「セシウム137が蜂群崩壊や個体数の減少と関係があるのか​​どうかは定かではありません」と述べつつも、放射性物質による汚染が昆虫に及ぼす影響を理解するためにさらなる研究が必要だと主張しました。

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in サイエンス,   , Posted by log1h_ik

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