放射能汚染で人影が消えたチェルノブイリ原発周辺は事実上の「自然保護区」になって野生のオオカミが繁殖している
1986年4月26日に発生したチェルノブイリ原子力発電所の原子炉爆発事故の後、ソ連当局によって原子力発電所の周囲30km圏内を立入禁止区域に設定されることになり、2018年現在も区域内に入ることは制限されています。ミズーリ大学で生態学を研究しているマイケル・バーン氏らの研究チームによると、2018年時点のチェルノブイリ立入禁止区域は事実上の自然保護区となっており、オオカミの繁殖に大きく貢献しているとのことです。
Evidence of long-distance dispersal of a gray wolf from the Chernobyl Exclusion Zone | SpringerLink
https://link.springer.com/article/10.1007/s10344-018-1201-2
Chernobyl's Radioactive 'Wildlife Preserve' Spawns Growing Wolf Population
https://www.livescience.com/62964-chernobyl-wolves-spreading.html
これまで、多くの研究者がチェルノブイリ立入禁止区域に生息する野生動物を調査しており、いくつかの調査では「野生生物が苦しんでいる」ということが示されていました。これらの調査結果に対して、バーン氏は「人が立ち入らないことで事実上の自然保護区となったことから、禁止区域内に生息するオオカミの人口密度が周辺地域と比べて7倍に増加しています」と語り、禁止区域内の面積に対して、オオカミの個体数が多いことを指摘。同氏は「オオカミの高い人口密度を考慮すると、他の地域に移動するオオカミもいるのではないかと考えました」と述べ、今回の調査を行った経緯を説明しています。
研究チームはオオカミの行動を調査するため、立入禁止区域内に群れて生活する健康な2歳以上の大人のオオカミ13頭と2歳に満たないオスの若いオオカミ1頭にGPSを取り付けて行動を追跡しました。調査開始から約3カ月後、14頭の群れにいた1頭の若いオオカミが集団から抜け出し、立入禁止区域外で行動していることを確認。その後、このオオカミは21日間かけて、立入禁止区域から約300km以上離れていたことが明らかになりました。
しかし、このオオカミに取り付けたGPSが故障してしまったため、若いオオカミが最終的に立入禁止区域に戻ったのか、その後も外の地域に残ったのかは不明であるとしています。バーン氏は「この発見は、オオカミが立入禁止区域をはるかに越えて移動していることを示す証拠となるものです」と語り、若いオオカミが他の地域を移動しているという事実が重要であると強調しています。このオオカミが移動している間に他の地域のオオカミと繁殖行動を行っている可能性があることから、バーン氏は「チェルノブイリ立入禁止区域内に生息するオオカミが放射性物質によって生態系を破壊されてしまうのではなく、逆に他の地域のオオカミの個体数を増加させる供給源として機能するかもしれません」と個体数増加に寄与する可能性を示唆しており、「この行動はオオカミ以外の動物でも同じことが起きていると仮定するのが合理的です」と他の野生動物でも同様のことが考えられるとしています。
バーン氏は調査結果に疑問を抱く人がいることを認識しており、「多くの人々は、チェルノブイリ立入禁止区域内で生まれた動物たちは放射性物質によって変異しており、彼らが他の地域に移動することで生態系に影響を与える可能性があると考えています」と語っています。バーン氏はこの疑問点について「この調査では生態系に影響が出ているかどうかを裏付ける証拠はありません」としながらも、「今後の興味深い研究分野となるものです」と語り、今後調査によって明らかにしないといけない点であることを認めています。
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