2019年02月20日 21時00分メモ

博物館に放射線を放つウラン鉱石が入ったバケツが10年以上放置されていた

by SCFiasco

アメリカのアリゾナ州にあるグランド・キャニオン国立公園は、コロラド川による浸食で作られた巨大な峡谷のグランド・キャニオンなどの雄大な自然を有しており、世界遺産にも登録されています。そんなグランド・キャニオン国立公園の博物館内に、核燃料としても使用される放射性物質のウランが入ったバケツが長年にわたり放置されていたことが判明しました。

Grand Canyon looking into possible radiation exposure
https://www.apnews.com/bb1302bccf3d4d82b250c2f93b2ab6fe

Uranium Ore Stored At Grand Canyon Park Museum Unlikely To Have Been Dangerous : NPR
https://www.npr.org/2019/02/19/696001017/grand-canyon-museum-reportedly-had-buckets-of-uranium-sitting-around-for-18-year

この事実はグランド・キャニオン国立公園の安全衛生管理マネージャーのElston Swede Stephenson氏が、国立公園の従業員および新聞社のArizona Republicに対して「博物館内の人々が放射線にさらされていた」と告発する電子メールを送信したことで明るみに出ました。ウラン鉱石が入ったプラスチックバケツは全部で3個あり、博物館内には一般のツアー客が訪れることもあったとのこと。Stephenson氏によると、博物館のプレゼンテーション中に子どもがバケツの近くに座っていたこともあったそうです。

バケツのふたは閉じられていなかったそうですが、今のところウラン鉱石に近づいた人が危険にさらされていたのかどうかについては判明していません。単にウラン鉱石のすぐ近くにいたからといって、安全でない量の放射線を浴びたとは考えにくいと、ニュースメディアNPRのライターであるLaurel Wamsley氏は述べています。

国立公園の広報担当者であるVanessa Lacayo氏は、今のところ博物館内に放置されていたウラン鉱石に関する調査を進めているとしており、ウラン鉱石による放射線被害を心配する人向けのホットラインを用意するつもりだと述べています。ウラン鉱石の入ったバケツは博物館内の見学コース上に置かれていたわけではないものの、近くを通り過ぎた人もいるとLacayo氏は話しました。

by Alex Pham

グランド・キャニオンでは数十年にわたってウラン鉱石が採掘されてきたという歴史があり、適切に処理されていない放射性廃棄物による汚染が問題となっていました。現在ではグランド・キャニオン周辺での新たなウラン採掘は禁止されていますが、多くの先住民族が強制的に移住を余儀なくされたり、生活圏を汚染されたりといった被害を受けたとのこと。

北アリゾナ大学の化学・生化学教授のJani Ingram氏は、ウラン鉱石が研究に使われることは少なくないものの、通常は金属製容器の中で厳重に密閉されていると指摘しています。「ウラン鉱石によって健康被害が出るのかどうかは、鉱石が発する放射線量と鉱石に近づいていた時間によって変わってきます。『ウラン鉱石の近くにいた子どもは5年以内にガンになってしまう』と言うことは誰にもできません」とIngram氏は述べていますが、放置されていたウラン鉱石が懸念事項であることは間違いないとしました。

Stephenson氏は2019年2月4日にグランド・キャニオン国立公園の従業員に送ったメールで、「2000年から2018年6月18日までの間に博物館内へ行った人は、ウラン鉱石の放射線にさらされた可能性がある」と警告したそうです。誰にも知られることのなかったウラン鉱石の存在が判明したのは、2018年3月に従業員の10代の子どもが、放射線量を測定するガイガーカウンターを博物館内に持ち込んだことがきっかけでした。

ガイガーカウンターは博物館のコレクションルームから放射線を検知し、調査の結果バケツの中に入っていた石が放射線の発生源だとわかりました。バケツは博物館内に置かれる以前は、数十年にわたって地下室に保管されていたとのこと。

by William Haun

Stephenson氏によると、2018年6月に専門の技術者が博物館に到着し、ウラン鉱石の入ったバケツを運び出したとのこと。バケツは2マイル(約3.2km)離れた古いウラン鉱山へと運ばれ、鉱石を捨ててバケツだけが博物館に戻されたそうです。

「私の関心は従業員と人々の安全です」と述べるStephenson氏は、国立公園が従業員や観光客に対し放射線にさらされた可能性について周知していないと非難しています。Stephenson氏の意見が国立公園側に受け入れられなかったため、結局Stephenson氏は全てを新聞などに暴露することを決めたと述べました。