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ボードゲームを禁止された刑務所で囚人はどうやってチェスをプレイしているのか?


チェスの天才少女を描いたNetflix配信のドラマ「クイーンズ・ギャンビット」は世界中で高評価を受けており、アメリカではドラマの影響でチェスブームが起きつつあるとも報じられました。一方で、アメリカの刑務所内では新型コロナウイルスの影響でボードゲームが禁じられているそうで、囚人たちはチェスをプレイするために涙ぐましい努力を重ねていると実在の服役囚が報告しています。

When The Prison Banned Board Games, We Played Chess In Our Minds | The Marshall Project
https://www.themarshallproject.org/2021/02/11/when-the-prison-banned-board-games-we-played-chess-in-our-minds

テキサス州のジム・ファーガソン刑務所に収監されている24歳のハーリン・ピアースは、服役しながら数学などの勉強をしたり読書クラブを設立したりと、刑務所内でも精力的な活動を行っている人物。そんなピアースは熱心なチェスプレイヤーであり、自分がそれなりに強いプレイヤーであると自覚しているとのこと。


そんなピアースと頻繁にチェスの対戦を行うのが、同じく服役中のウォーリーという囚人。ウォーリーは拳にチェスのコマの入れ墨をしているほどのチェス愛好家であり、非常に才能があるプレイヤーだとのこと。ピアースは何度もウォーリーと対戦しているそうですが、ウォーリーはいつもピアースに勝つことができないそうです。

2人はチェスの対戦を日々の楽しみにしていたものの、新型コロナウイルスのパンデミックによって刑務所内の生活は一変しました。囚人たちも社会的距離を保つことが要請され、談話室や庭で過ごす時間が制限されてしまった上に、チェスを含むボードゲームで遊ぶことも禁止されてしまったとピアース氏は述べています。独房で過ごす時間が増えて面と向かい合ってウォーリーとチェスができなくなったため、2人は「社会的距離を保ったままチェスをプレイする方法」を考えることにしました。


幸いなことにピアースとウォーリーの独房は同じ通路に面しており、間に1部屋挟んだだけの距離にあるため、お互いの声が届く環境にあります。そこで2人は独房の中にそれぞれチェス盤とコマを持ち込み、お互いの手を声で伝え合ってチェスをプレイすることにしました。

チェス盤のマスは横の行が「a~h」のアルファベット、縦の列が「1~8」の数字に対応しており、「e4」「c5」「f3」といった風に、アルファベットと数字の組み合わせでマスを指定することができます。従って、「ビショップc6」のようにコマの名称とマスを指定することで手順を伝え、お互いに相手の宣言に従ってコマを動かすことで、それぞれが独房に収監されている状態でもチェスをプレイできます。

また、刑務所の中は騒がしい上に「b」「c」「d」「e」の発音が似ているため、2人は「a=alligator(ワニ)」「b=baseball(野球)」「c=constellation(星座)」「d=dinosaur(恐竜)」「e=elephant(ゾウ)」「g=golf ball(ゴルフボール)」という風に、紛らわしいアルファベットを単語に置き換えて宣言することに決めました。

こうして2人は、「ポーン、恐竜4!」「ポーン、恐竜5!」などと大声で叫ぶことでチェスをプレイし始めたそうで、しばらく他の囚人たちから笑われていたとのこと。しかし、他の囚人たちに笑われること以上に、この方法は1ゲームに時間がかかりすぎるという課題があったとピアースは述べています。


翌日、談話室で囚人同士の接触が許されるわずかな時間で2人は話し合っていた際、ピアースは冗談交じりで「頭の中で遊んでみませんか?」と提案してみたそうです。ピアースは本気ではなかったものの、ウォーリーはこのアイデアを真剣に検討し、実際に脳内でチェスをする試みを実行に移すことになったとのこと。

手順の宣言は以前の通りに大声で伝えて脳内チェスをプレイしてみたところ、2人ともチェス盤とコマを用いなくても脳内で盤面を再現できることが判明。そのため、途中で看守によって中断されてしまっても、食堂などで会った際に再びゲームの続きをプレイすることができたそうです。

こうして2人が脳内チェスをプレイし続けていたところ、次第に周囲の独房にいる囚人たちもこのゲームに興味を持ち、実際に声を使ってチェスをプレイする囚人も現れ始めたとのこと。ピアースは、近いうちに「脳内チェストーナメント」が開催されるのは希望的観測かもしれないものの、この風変わりな知的ゲームが多様な文化や背景を持つ囚人たちを結びつけていると主張しています。

「人生で犠牲者を演じることは簡単であり、あなたの状況があなたの性質を決めることを可能にします。しかし、人生に満足しているか取り乱しているかの違いは、視点の問題です。私たち1人1人には自分たちが望む視点を育み、それを私たち自身の経験に適用する能力があります。私たちは肉体的な自由を放棄することを余儀なくされていますが、自分の精神をコントロールすることをあきらめる必要はありません」と、ピアースは述べました。

なお、この記事を執筆したピアースは高校在学中の2015年に父親をライフルで撃って殺害したとして逮捕され、懲役33年の判決を受けて服役中とのことです。

Former Santa Fe teen could face death in dad’s slaying | Local News | santafenewmexican.com
https://www.santafenewmexican.com/news/local_news/former-santa-fe-teen-could-face-death-in-dad-s-slaying/article_52fd7ee9-004a-593b-989c-74f12c7f72a1.html

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in ゲーム, Posted by log1h_ik

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