人間がコンピューターに勝てなくなってもチェスの人気は衰えていない
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20世紀に登場したコンピューターは単なる産業機械としての使用にとどまらず、やがてチェスや将棋をはじめとしたボードゲームをプレイさせることまで可能になっています。すでにコンピューターが人間を上回る実力を手にしているチェスですが、「いまだにチェスの人気は衰えていない」と、経済学者であり過去にチェス選手の最高位であるグランドマスターの称号を手にしたこともあるケネス・ロゴフ氏が述べています。
Why Human Chess Survives by Kenneth Rogoff - Project Syndicate
https://www.project-syndicate.org/commentary/human-chess-survives-artificial-intelligence-by-kenneth-rogoff-2018-11
かつて、コンピューターがあるゲームを攻略して人間のチャンピオンを打ち負かしてしまうことは、そのゲームが「死」を迎えることだと考えられていました。実際に1970年代にコンピューターが台頭してきた時、ロゴフ氏は同じことを考えたといいます。
マサチューセッツ工科大学(MIT)の大学院生だったロゴフ氏は、天才的なコンピュータープログラマーであったリチャード・グリーンブラット氏が作成したチェスプログラムと対戦する機会があったとのこと。グリーンブラット氏は任意の位置からチェスの駒を動かすプログラムを作り、MITのメインフレームに直接自作のカスタムビルドボックスを接続しました。
当時そのプログラムと対戦したロゴフ氏は、「そのプログラムは世界トップクラブに所属するチェスプレイヤーと同等の実力がありましたが、私は常にそのプログラムを倒すことができました」と語っています。しかし、このままコンピューターが発展を続ければ、やがてコンピューターがチェスの世界チャンピオンを倒す日がくるだろうと思ったそうです。
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ロゴフ氏が危惧した通り、1997年にはチェス世界チャンピオンであったガルリ・カスパロフ氏とIBMが開発したチェス専用のスーパーコンピューターのディープ・ブルーが対戦し、6戦中2勝1敗3引き分けでディープ・ブルーが勝利。チェスのプロたちに大きな衝撃を与えました。実際にディープ・ブルーの勝利以降、チェス世界大会の主催者たちは大会賞金をスポンサーから集めるのに苦労する時期もあったとのこと。
チェス世界チャンピオンがディープ・ブルーに敗北してから20年以上が経過した現在では、スマートフォンにインストールできるようなプログラムに対してもチェスのトッププレイヤーは勝利できません。しかし、チェスの人気が衰えて瀕死の危機にあるといった事態には陥らず、むしろチェスはこれまで以上に世界中で人気を集めるゲームとなっています。その理由として、インターネットとコンピューターの発達により世界各地の強豪プレイヤーと手軽に対戦できる環境が整い、親たちも「ビデオゲームをするよりはインターネットでチェスをしている方がいい」と考えているからだとロゴフ氏は述べています。
また、いくらコンピューターが発達しようがコンピューターの思考は人間の思考と違うものであり、コンピューターのプレイを完全に模倣することが、必ずしも人間同士の対戦での勝利に結びつかないという点も、チェスの人気が衰えていない要因のひとつとなっています。大会に出場するような強豪プレイヤーたちも「コンピューターによるチェス」と「人間によるチェス」に違いを感じており、勝利を収めたプレイヤーが対戦後に、「コンピューター的に考えれば最善手は別にあったが、私は人間として最高のプレイをした」とコメントすることも少なくありません。
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一方でコンピューターを用いたチート行為が問題となることも確かに存在し、プレイヤーは携帯電話の持ち込みができず、観客とのコミュニケーションも禁じられるようになっています。プレイヤーのチートが疑われるがチートの仕組みについて確証がない場合、最終手段として「トップコンピュータープログラムとプレイヤーの動きを照合し、一致率が高すぎる場合はプレイヤーを失格とする」といった手が取られることもあります。
特に賞金総額の高くなる大きな大会では、非常に厳重なチート対策が取られます。2018年11月にロンドンで開催された世界チェス選手権大会では、2013年からチェスの世界チャンピオンであるマグヌス・カールセン氏と挑戦者のファビアーノ・カルアナ氏が対戦。この際、両者は観衆からのメッセージを受け取ることができないように、偏光ガラスに遮られた空間の中でプレイを行ったそうです。
両者の試合は非常に激しいものであり、終盤に至ってわずかなミスも許されない状況での戦いは非常に素晴らしかったとのこと。試合は12回もの引き分けの末にタイブレークに持ち込まれ、カールセン氏が勝利を収めました。
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