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1つのIDであらゆるサイトにログインできるスイスの「電子ID法案」が国民投票で否決される、「プライバシーは政府が管理して」とスイス国民が訴える理由とは?


スイスで2021年3月7日に、インターネットサービスで使用できる電子的な身分証明に関する法律である「電子的な身分証明サービスに関する連邦法(eID法)」の是非を問う国民投票が実施され、反対多数で否決されました。その背景には、政府ではなく民間企業によって個人情報が管理されることに対する、スイス国民の不安があると指摘されています。

Digital identity scheme shot down by voters over data privacy concerns - SWI swissinfo.ch
https://www.swissinfo.ch/eng/digital-identity-scheme-faces-scepticism-around-data-privacy/46399636

インターネット上のプライバシーに関する法整備で世界をリードすることが多いEUには、電子取引を安全にやり取りするための共通基盤を定めるeIDASという規則が制定されています。同様の制度の実現を目指すスイス政府は3月7日に、eID法案に関する国民投票を実施しました。

その結果が以下。法案は賛成35.6%・反対64.4%の反対多数で否決されました。スイスの全ての州が、反対派が過半を占めることを示す茶色になっていることから、スイス全土で法案に対する懸念が高まっていたことがうかがえます。


eID法案は、もともとは2018年にスイス議会を通過した法案で、個人を識別可能な一意の身分証明であるeIDがスイス国民に発行されるというものです。申請によりeIDの発行を受けた人は、eIDを使って銀行口座を開設したり、オンラインで買い物をしたり、公文書を請求したりすることができるようになります。

しかし、法案は「eIDの発行と管理を行うのはスイス政府ではなく民間企業」と定めていたことから、国民からは「政府が責任を持つべきだ」という意見が噴出。反対派の政治家らが、重要な制度の可否を議会の決定に委ねるのではなく、直接国民の投票によって審議するレファレンダムを動議したことで、3月7日の国民投票に付議されるはこびとなりました。

eID法案に反対している団体のComité citoyenの主催者であるダニエル・グラフ氏は、eID法案の否決について「有権者はeIDの制度に反対したのではなく、法案で示された運用方法に反対したということでしょう」とコメント。法案反対の旗手の1人であるスイス緑の党のシベル・アルスラン議員は、「投票結果は、政府が提供し民主的に管理されるeIDこそ、国民が望むものだということを明らかにしました」と述べました。


スイス国民が、民間企業によるeIDの運用に反対している背景には、「企業がプライバシーを侵害するのではないか」という懸念があると指摘されています。意識調査を行う民間団体GFS Bernのウルス・ビエリ氏はラジオ番組で、「民間企業への不信感が支配的だったので、投票は反対派の有利に進みました」と発言しました。

また、スイス放送協会が運営するニュースサイトであるSWI swissinfo.chは、「国は監督や許認可の権限だけを持つのではなく、全責任を負うべきだと反対派は主張しています。商業プロバイダーによる個人情報侵害のリスクが、デジタルな民主主義を目指す取り組みを形骸化させてしまうというのが、その主張の根拠です」と説明しています。


スイスでは、2010年にも半官半民のベンチャーであるSwissSign GroupがeIDと同様の制度であるSwissIDの導入を目指しましたが、失敗に終わりました。今回のeID法案の否決により、デジタルな身分証明の一本化を目指す動きはさらに後退するとみられています。

なお、3月7日の国民投票ではeID法案の他にも、女性イスラム教徒が着用するブルカの禁止を規定する法律やインドネシアとの経済連携協定に関する法律の投票が行われ、いずれも賛成が51.1%の僅差で可決されました。

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in ネットサービス,   セキュリティ, Posted by log1l_ks

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