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AIに関する膨大な調査データをまとめた「Artificial Intelligence Index」の2021年版が公開


人工知能(AI)研究の世界的権威であるリー・フェイフェイ氏らが中心となって設立したStanford Human-Centered AI Institute(HAI)が、AIに関する膨大な調査データをまとめた「Artificial Intelligence Index」の2021年版を発表しました。2020年に猛威を振るった新型コロナウイルス感染症(COVID-19)がAI開発におよぼした影響などが、複数の観点から分析されています。

The AI Index Report – Artificial Intelligence Index
https://aiindex.stanford.edu/report/

Introducing the new AI Index! Take a deep dive into what happened in the world of #AI this year, from technical advances to hiring to the ethical landscape. #AIIndex2021 https://t.co/M5Q0wJg6NO pic.twitter.com/Wz4mg1NcW4

— Stanford HAI (@StanfordHAI)


Annual index finds AI is 'industrializing' but needs better metrics and testing | VentureBeat
https://venturebeat.com/2021/03/03/annual-index-finds-ai-is-industrializing-but-needs-better-metrics-and-testing/

Artificial Intelligence Indexはスタンフォード大学のHAIに所属する11名の運営委員会によって編集され、ハーバード大学や経済協力開発機構Partnership on AISRIインターナショナルといった団体からの寄稿者によるテキストがまとめられたもの。

そんなArtificial Intelligence Indexの2021年版が挙げた、2020年におけるAI開発におけるハイライトは以下の9つ。

1:薬開発におけるAI分野の投資が大幅に増加
薬開発やがん治療、新薬発見といった分野におけるAIの利用はこれまで以上に注目されており、2020年にはAI関連の民間投資やM&A、グローバル投資の総額が前年比で40%近く増加したことが判明しています。2020年における民間のAIを用いた薬開発に対する投資総額は138億円(約1兆5000億円)超を記録しており、これは2019年の4.5倍に相当します。

実際、AIを用いて既存の薬の中から別の病気に効果があるものを見つけたり……

既にある薬の中から別の病気に効果があるものを見つけ出してくれるAIが開発される - GIGAZINE


AIを用いて乳がんの発生を予知したり、がん免疫療法が効く人と効かない人を判別したりする取り組みが行われています。

AIを使って「がん免疫療法が効く人と効かない人」を判別することが可能に - GIGAZINE

by DC_Studio

一方で、AI関連スタートアップへの資金提供数は3年連続で減少しています。


2:業界の変化は続く
2019年には北米地域における博士号修了者の65%がAI業界に参入しており、この数字は2010年の44.4%から増加しています。


3:AIがあらゆるものを生成する
AIを用いたシステムはテキスト・オーディオ・画像を十分に高い水準で自動生成することができるようになっています。そのため、人間はAIが生成したものを「AIが生成したもの」として認識することに苦労しています。

例えばAIを用いて架空の人間の写真を生成できる「This person does not exist」を使えば、AIが生成する写真の精度の高さを実感することができます。

この世界に存在しない人物の画像をワンタッチで簡単に生成できる「This person does not exist」 - GIGAZINE


また、「実在する人間の写真」と「AIが生成した架空の人物の顔写真」をクイズ形式で見分けるウェブサイトも登場しており、AIを用いて気軽に本物かどうか区別するのが難しいレベルの写真が生成できることが実感できるはずです。

現実の人間とAI製の顔画像を見抜けるかどうかテストする「Which Face is Real?」レビュー - GIGAZINE


ただし、架空の人物写真を生成できるAIが悪用されているとも指摘されています。

存在しないネコや女性の顔を生成するAIがTwitterのボットに悪用されている - GIGAZINE


AIを用いたオーディオ分野の取り組みも行われており、音楽に合わせて自動でドラムパートを演奏してくれる「DrumBot」のようなウェブアプリが登場したり、ラッパーのトラヴィス・スコットの楽曲を学習したAI「TravisBott」が新曲をリリースしたりしています。

プロのラッパーの楽曲を機械学習したAIが新曲を発表、いかにもAIラッパーっぽいPVも公開中 - GIGAZINE


テキスト分野では、あまりにも高精度のテキストを簡単に作り出してしまうため開発陣から「危険過ぎる」と問題視されたテキスト生成用AIモデル「GPT2」の後継モデル「GPT-3」が2020年6月に公開され、Reddit上で1週間AIと気づかれることなく人間と対話していたことが話題となりました。

文章生成AI「GPT-3」がRedditで1週間誰にも気付かれず人間と会話していたことが判明 - GIGAZINE


4:AIは多様性を課題としている
一方で、2019年におけるアメリカ在住の博士号修了者のうち、AI業界に新卒採用された人種は白人が45.6%、アジア系が22.4%、アフリカ系アメリカ人は2.4%、ヒスパニック系は3.2%、非ヒスパニック系のマルチレイシャルが1.6%、不明が24.8%でした。


また、AI関連の博士号修了者のうち、女性の割合はわずか18%だったことが計算機協会の調査により明らかになっています。


5:中国がAI論文の引用でアメリカを追い抜く
中国の科学研究は目覚ましい進化を遂げており、2019年12月には化学論文の発表者数で中国がアメリカを追い抜いたことが報じられています。

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by geralt

さらに、中国は論文の引用数でもアメリカを上回っているとのこと。ただし、過去10年間でみるとアメリカは中国よりもかなり多くのAI関連論文を発表しており、引用数もずば抜けて多い模様。

6:アメリカにおけるAI関連の博士課程修了者の大多数は海外出身で、卒業後もアメリカに滞在している
北米のAI関連博士課程修了者における留学生の割合は、2019年も引き続き増加しており、64.3%に到達しています。この数字は2018年から4.3%増加ということになります。なお、そのうち81.8%が卒業後もアメリカに滞在しており、わずか8.6%のみがアメリカ国外で就職しているそうです。


7:監視技術は高速かつ安価でますますユビキタスになっている
大規模監視に必要な技術は急速に成熟しています。監視に用いられる画像分類・顔認識・動画分析・音声認識といった技術はすべて2020年に大きな進歩を遂げています。

監視に関連する技術の代表格である顔認識技術は、人間の顔だけでなく野生動物や家畜の個体識別にも使えるレベルにまで進化しています。

クマやウシの顔を識別するAIが登場、野生動物の保護や家畜の個体追跡において有望 - GIGAZINE

by Princess Lodges

高精度の顔認識システムで絶滅の危機に瀕する霊長類を保護する取り組み - GIGAZINE


一方で、IBMが顔認識市場からの撤退を表明したり、アメリカの大都市で顔認証システムの導入が禁止されたりと、プライバシー面で大きな懸念がつきまとっています。

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by Mike MacKenzie

8:AI倫理にはベンチマークとコンセンサスが欠けている
多くの研究グループがAI倫理に関する領域で定性的あるいは規範的な成果を生み出していますが、この分野には一般的に「技術開発に関するより広範な社会的議論と技術自体の開発との関係を測定または評価するためのベンチマークがない」とArtificial Intelligence Indexは指摘。実際、倫理に反するようなAIの開発は止めるべきなのかについてはさまざまな議論が交わされており、50万件のブログと6万件のニュース記事を分析した結果、AI倫理に関する投稿がAI関連の記事の中で最も人気が高いことが明らかになっています。

なお、2020年に業界を騒がしたAI倫理に関する記事としては、ローマ・カトリック教会のフランシスコ教皇がMicrosoftやIBMと共同で発表した「AIの倫理に関するローマの呼びかけ」や……

ローマ教皇がMicrosoftやIBMと共同で発表した「AIの倫理に関する呼びかけ」とは? - GIGAZINE

by Long Thiên

Googleで倫理的AIチームのテクニカルリーダーを務めていたティムニット・ゲブル博士が解雇された事例などが挙げられています。

Googleが倫理的AIチームの研究者を解雇したことは「前例ない検閲」だとして非難集中、Google社員1200人以上が抗議文に署名 - GIGAZINE

by Thomas Hawk

9:AIはアメリカ議会の注目を集めている
2019年1月から2021年1月まで行われてきた第116議会では、2017年1月から2019年1月までの間に行われてきた第115議会と比較して、AIに関する発言数が3倍に増加しています。

以下は議会におけるAIおよび機械学習(ML)関連の言及数の変化をまとめたグラフ。


他にもLinkedInが提供したデータから、ブラジル・インド・カナダ・シンガポール・南アフリカで2016年から2020年にかけて最高レベルのAI技術が採用されたこと、GitHubリポジトリのスター数からAI関連ソフトウェアライブラリで最も人気が高いものは「TensorFlow」であること、arXiv上で発表されたAI関連の論文の件数が2015年の約5500件から2020年には約3万5000件にまで増加したこと、Queer in AI 2020のメンバー調査により回答者の約半数が嫌がらせや性的差別を経験したことなども明らかになっています。

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in メモ, Posted by logu_ii

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