クマやウシの顔を識別するAIが登場、野生動物の保護や家畜の個体追跡において有望
by Princess Lodges
近年では人々の顔を認識・識別するAIの精度が向上しており、スマートフォンなどのロック解除や法執行機関による監視など至るところに用いられています。AIによる顔認識は人間だけの専売特許ではないようで、野生のクマやウシの顔を認識するAIが登場していると海外メディアのCNNが報じています。
Automated facial recognition for wildlife that lack unique markings: A deep learning approach for brown bears - Clapham - - Ecology and Evolution - Wiley Online Library
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/ece3.6840
Face recognition isn't just for humans — it's learning to identify bears and cows, too - CNN
https://edition.cnn.com/2020/11/22/tech/face-recognition-bears-cows/index.html
多くの人々はクマの顔を見分けることができず、複数のクマの中から特定のクマを識別できません。しかし、カナダ・ビクトリア大学の博士研究員としてクマの研究を行っているMelanie Clapham氏が、「私は個体の特徴を使って識別します。たとえば、あるクマには耳や鼻に傷があります」と述べるように、クマごとにはさまざまな個体差があります。Clapham氏によると、多くの人々はクマの全体的な外見に目を向けて識別を試みるそうですが、クマは冬眠の前に太ったり冬眠後にげっそりとやせたり、1年の間に劇的に変化するため、全身に目を向けても識別しにくいとのこと。
個々のクマを識別することは、種の研究と保護に役立つ可能性があるため、非常に重要だとClapham氏は指摘。それぞれのクマを識別することができれば、人里に下りてゴミ箱をあさる個体や農家の家畜を襲う個体といった、問題を起こす特定のクマに対処することが容易になります。
「人間を識別するために使われる顔認識AIが、クマにも適用できるのではないか」と考え始たClapham氏は、2017年に保護活動家と技術コミュニティが交流しるWildlabs.netというプラットフォームに参加。そこで、シリコンバレーを拠点に活動するEd Miller氏とMary Nguyen氏と出会い、3人で協力して「クマの顔認識AI」の開発を始めたそうです。
by David Ellis
研究チームはクマの顔認識AIを開発するにあたり、イヌの顔を識別して口ひげや帽子を追加できる既存のAIソフトウェア「Dog Hipsterizer」を改良し、クマの顔を認識できるAIを開発したとのこと。このAIにクマの顔写真を大量に学習させることで、各個体を識別できるAIの開発を目指しました。
機械学習のため、研究チームはカナダ・ブリティッシュコロンビア州のナイト海峡やアリゾナ州・ブルックス川に生息するハイイログマの写真を合計4674枚収集し、そのうち80%を顔認識システムのトレーニングに、残りの20%をシステムの精度測定に使用しました。
こうして研究チームが開発した「BearID」というクマの顔認識AIは、すでにAIが学習済みのハイイログマの個体であれば、実に84%の精度で識別できるそうです。BearIDを用いたハイイログマの追跡プロジェクトでは132頭の個体が追跡されているそうで、研究チームは個体の耳にRFIDのタグを埋め込む方法よりも安価かつ非侵襲的で、より長期間にわたる追跡が可能だと述べています。
顔認識AIを用いて個体を識別・追跡する試みは野生動物に限らず、牧場で飼育される家畜にも応用する動きが広まっています。カンザス州の牧場主であるJoe Hoagland氏は、カンザス州立大学のKC Olson教授と協力し、「CattleTracs」というウシの追跡アプリを開発しました。
CattleTracsを用いれば、誰もがウシの写真を撮影してGPS座標や時刻と紐付け、オンラインデータベースに保存することが可能。データベースに保存された各個体の写真は以前の写真と照合され、撮影されたウシがどこの生産者の元で生まれたのか、どのような経緯をたどって現在の場所に来たのかを知ることができます。
13万5000枚以上の若い肉牛の写真を用いて訓練されたCattleTracsは、たとえ初見のウシであっても94%の精度で識別できるそうで、ウシ同士が密着していると上手く機能しないRFIDを用いた追跡よりも正確で優れているとのこと。
Hoagland氏はCattleTracsを使うことで、家畜の間で広まる感染症の調査において、各個体の接触を容易に追跡することができると主張。「CattleTracsを使えば病気の動物を追跡して原因を見つけ、隔離し、接触追跡と行うことができます。新型コロナウイルスで話されていることは全て、動物でもできることです」と述べました。
今回CNNが報じたクマやウシに限らず、多くの写真を入手できる全ての生物において、個体を識別するAIを開発できる可能性があります。その一方で、動物の顔認識技術は人間と同様の「プライバシーの問題」を抱えているわけではありませんが、悪意を持った人に個体識別AIやトレーニングデータが悪用されるかもしれません。たとえば、密猟者が顔認識AIのトレーニングデータを用いて目当ての動物を追跡し、捕獲や狩猟に役立てる可能性があるため、特定の人だけがデータにアクセスできる対策などが必要だとのことです。
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