300年以上前の特殊な方法で封じられた手紙をX線スキャナーで仮想的に開くことに成功
by Unlocking History Materials Collection
封筒が登場する以前のヨーロッパでは、誰かに送る手紙を途中で読まれないようにするため、手紙自体を特殊な折り方で封じる「レターロッキング」という方法が採用されていました。レターロッキングで封じられた手紙を開かずに内容を読む方法が、国際的な研究チームによって開発されたと報告されています。
Unlocking history through automated virtual unfolding of sealed documents imaged by X-ray microtomography | Nature Communications
https://www.nature.com/articles/s41467-021-21326-w
Secrets of sealed 17th century letters revealed by dental X-ray scanners | EurekAlert! Science News
https://www.eurekalert.org/pub_releases/2021-03/qmuo-sos030121.php
“Locked” for 300 years: Virtual unfolding has now revealed this letter’s secrets | Ars Technica
https://arstechnica.com/science/2021/03/locked-for-300-years-virtual-unfolding-has-now-revealed-this-letters-secrets/
New Technique Reveals Centuries of Secrets in Locked Letters - The New York Times
https://www.nytimes.com/2021/03/02/science/locked-letters-unfolding.html
レターロッキングは、手紙を折り畳んだり一部を切り落としたり、あるいは部分的にヒモやワックスで固定したりして封じることで、送り届けられる途中で誰かが読んだらすぐにわかるようにする技術です。ヨーロッパにおけるレターロッキングの歴史は13世紀にさかのぼり、1830年代に大量生産された封筒が登場するまでの間、多くの人々に用いられていたとのこと。
自身の手紙をレターロッキングで封じたことが知られている人物には、メアリー1世やエリザベス1世などの貴族、思想家のニッコロ・マキャヴェッリ、学者のガリレオ・ガリレイといった著名人がいます。また、レターロッキングは著名人に限らず、手紙を出す習慣を持っている一般の人々の間でも使用されていたそうです。
数世紀にわたる歴史の中で、レターロッキングにはさまざまな形態が生まれました。マサチューセッツ工科大学(MIT)でレターロッキングを研究するJana Dambrogio氏によると、レターロッキングの形態は数百種類におよぶそうで、単純なものもあれば非常に複雑なものもあるそうです。人によっては独自に開発した自分だけのレターロッキングを使用する場合もあり、差出人の個性を手紙の封じ方で見せることもできたとのこと。
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しかし、「レターロッキングの種類や中身を調べようと開封すると手紙が破損してしまう」という点が、レターロッキングの研究においてネックとなっています。手紙を開いたためにレターロッキングに使われた技術の手がかりが失われてしまうケースもあるとのことで、Dambrogio氏は「私たちは本当にオリジナルを保持する必要があります。封じられた手紙を閉じたままにしておくことで、そこから学び続けることができます」と述べています。
そこでDambrogio氏を含む国際的な研究チームは、ロンドン大学クイーン・メアリー校の歯科研究所で開発された高感度X線マイクロトモグラフィースキャナーを使い、レターロッキングで封じられた手紙を読む手法を考案しました。このスキャナーは歯に含まれるミネラル含有量をマッピングする目的で設計されたそうですが、古い紙や羊皮紙に含まれるインクでも動作するとのこと。
さらに研究チームは、折り畳まれた手紙の層を分離するアルゴリズムも開発し、レターロッキングで封じられた手紙を仮想的に展開し、手紙の折り畳み方について調査できるようにしたそうです。クイーン・メアリー校の共著者であるDavid Mills氏は、「このスキャン技術は医療用CTスキャナーに似ていますが、より強力なX線を使用することで、文字を書くために使用されたインクに含まれる金属の微細な痕跡を確認できます」とコメントしています。
X線スキャナーを用いた新たな手法を開発した研究チームは、オランダ・ハーグの郵便博物館に所蔵されているトランクに入っていた手紙の解読に挑戦しました。合計2571通におよぶこれらの手紙は1689~1706年の間に記されたものですが、何らかの理由で配達されなかったとのこと。また、全体のうち577通がレターロッキングによって封じられており、現在に至るまで未開封のまま保たれています。
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研究チームは577通のうち4通をX線スキャナーで分析し、実に300年ぶりに手紙の内容を読み取ることに成功しました。今回の研究で調べられた手紙のうち1通は、1697年7月31日付けでフランス・リールからハーグへ送られたものであり、死亡通知のコピーを送るように求める内容が記されていたとのこと。
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研究チームは、レターロッキングで封じられた手紙の調査により、地域の文化や郵便ネットワーク、レターロッキングの歴史に関する研究が進展する可能性があると指摘。「このアルゴリズムは、私たちをロックされた手紙の核心に導きます」「仮想的な展開を使用して、光の下で見られることも受取人に届くこともない個人的な物語を読むことは、本当に素晴らしいことです」と述べました。
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