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Intelが復活するために解決するべき5つの問題とは?


アメリカのチップメーカーであるIntelはCPU市場をけん引するトップ企業で、市場シェアの80%超を占めていたこともありましたが、ライバル企業のAMDがZenアーキテクチャを発表した2016年頃から、Intelは徐々にそのシェアをAMDに奪われつつあります。AppleとMicrosoftの元従業員でIT系ブログ「Stratechery」の執筆者であるベン・トンプソン氏が、Intelには解決するべき5つの問題点があると解説しています。

Intel Problems – Stratechery by Ben Thompson
https://stratechery.com/2021/intel-problems/


トンプソン氏は、2013年にブライアン・クルザニッチ氏がCEOに選出された時、「The Intel Opportunity(Intelのチャンス)」という前向きな記事を発表しましたが、「2021年から見るとこれはあまりにも楽観的すぎた」と述べています。2018年にクルザニッチ氏が社内規定に違反したことからCEOを辞任し、半導体ではなく経営の専門家であるボブ・スワン氏が継いでしまったことで「Intelはチャンスを失ってしまった」と評価しています。

そんなIntelが以下の5つの問題点を抱えていると、トンプソン氏は主張しています。

◆問題1:スマートフォン向け市場からの撤退
Intelはこれまで処理速度やパフォーマンスの向上に注目し過ぎるあまり、電力コントロールは軽視してきたとトンプソン氏は指摘。そのため、もともとAppleで独自にチップを開発していたiPhone向けはもとより、Android搭載スマートフォン向けチップ業界でも遅れを取ったとトンプソン氏はみています。

プロセッサの開発にはコストがかかります。過去20年間で、Intelの開発コストは数十億ドル(数千億円)にも達しましたが、このコストを回収するための収益源こそ数十億台もあるスマートフォン向け市場だったとトンプソン氏は主張しました。


なお、Intelはスマートフォン向けモデムチップ事業を抱えていましたが、2019年にAppleへ売却しています。

AppleがIntelのスマホ向けモデムチップ事業の買収を発表 - GIGAZINE


◆問題2:x86への依存
デスクトップPCやノートPCだけでなく、Intelはデータセンター部門でも収益を上げています。もともと企業向けには、サン・マイクロシステムズ(オラクル)が独占状態にありましたが、GoogleがIntelのx86をサーバー用の命令セットに採用し、他の主要なデータセンター事業者もこのGoogleのアプローチに追随したことで、Intelがデータセンター向けで大きくシェアを握ることとなりました。

Intelはx86のライセンスを所持しており、AMDなど他メーカーがx86を採用したプロセッサを開発する場合、ライセンス料が手に入ります。このx86のライセンスビジネスは収益性が高いのですが、ライバル企業のAMDがデータセンター向け市場にも参入しただけではなく、AmazonやNVIDIAがArmアーキテクチャをベースとしたプロセッサを発表したことで、Intelのデータセンター向け市場におけるシェアは少しずつ減ってしまっているとのこと。実際、Intelの2020年第3四半期(7~9月)における収益では、データセンター部門は不振だったことが報じられています。結局のところ、x86ライセンスビジネスに依存してしまい、急進的な一歩を踏み出せなかったことがIntelの問題点だとトンプソン氏は主張しています。


◆問題3:半導体製造能力の遅れ
おおまかにいえば、半導体チップは回路の線幅と間隔を細くすればするほど、面積当たりの回路密度(集積度)が上がり、性能が向上します。集積度を上げる製造プロセス技術で、Intelは10nmプロセスノードの開発に苦労しており、結果的に半導体ファウンドリのTSMCに遅れを取ってしまっていました。

独自の製造工場を持たないファブレスチップメーカーのAMDは、TSMCに生産を委託しており、AMDのCPUがIntelのCPUよりも安価でかつ性能も上回る場面も見られるようになりました。このこともまたIntelにとって、CPU市場のシェアを脅かす一因となっています。


◆問題4:TSMCの台頭
さらに、Intelが新CEOにパトリック・ゲルシンガー氏が就任すると発表した翌日、TSMCは2021年の設備投資に280億ドル(約2兆9000億円)を費やすことを発表し、TSMCのさらなる躍進を印象強いものとしました。IntelはすでにCPUの製造をTSMCに外部委託すると予測されており、半導体ファウンドリとしてはTSMCの後塵を拝することを覚悟しているようだと、トンプソン氏は主張しています。

IntelがCPUの製造をTSMCに外部委託すると市場調査会社が予測、2021年にエントリーCPU、2022年にミドルレンジ&ハイエンドCPUの製造が開始か - GIGAZINE


◆問題5:地政学
Intelはアメリカのオレゴン州、ニューメキシコ州、アリゾナ州に製造工場を構えています。一方、TSMCは台湾、Samsungは韓国に製造工場があります。しかし、トランプ政権による米中貿易戦争の結果、TSMCはアリゾナ州に5nmプロセスの製造工場をオープンすると発表しました。

Appleのチップ製造を担当する世界最大の半導体製造ファウンドリ「TSMC」がアメリカ国内に工場を建設か - GIGAZINE


トンプソン氏は「アリゾナ州に建設されるTSMCの製造工場は2024年にオープンするとされていますが、ほぼ間違いなくアメリカで最も先進的な製造工場となるでしょう」と語り、Intelが製造面でも苦戦を強いられるとしています。

トンプソン氏は、「設計部門と製造部門でIntelを分割する」あるいは「アメリカ政府が助成金を投入する」かどちらかが解決策だとしています。さらにトンプソン氏は、「理解しておかなければならないのは、アメリカの競争力を回復するには、リーダーシップを回復するよりも何年もかかるということです」と述べました。

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in ハードウェア, Posted by log1i_yk

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