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Intelを業界トップに押し上げるも再びピンチに陥らせた「破壊的イノベーション」理論とは?

by JiahuiH

1993年にx86アーキテクチャCPUのPentiumブランドを確立したIntelが、Pentium IIの廉価版として発表したローエンドのエントリーブランドが「Celeron」です。そんなCeleronの背景にあるIntelの技術戦略「破壊的イノベーション」について、非営利シンクタンク「イノサイト」のフェロー研究員であるジェームズ・オールワース氏が解説しています。

Intel’s Disruption is Now Complete | by James Allworth | Nov, 2020 | Medium
https://jamesallworth.medium.com/intels-disruption-is-now-complete-d4fa771f0f2c


「破壊的イノベーション」とは、ハーバード・ビジネス・スクールのクレイトン・クリステンセン教授が提唱した理論です。技術とは本来、主流市場の主要顧客が評価する性能指標に基づいて進化するものです。一方、「破壊的イノベーション」は、従来の技術よりも性能は低いものの、新しい価値基準では優れた特徴を持つ「破壊的技術」を進化させ、ニッチで新しい市場を開拓していくことを意味します。


Intelの3番目の社員であり、元会長兼CEOだったアンドルー・グローヴ氏は、この「破壊的イノベーション」を提唱したクリステンセン教授の著書「イノベーションのジレンマ」を「10年間で読んだ中で最も重要な本」だと評価していました。

さらに、グローヴ氏は著書を読むだけではなく、クリステンセン教授の理論をIntelの経営戦略に盛り込みました。当時からIntelはAMDと競争関係にあり、デスクトップPC向けCPU市場でもしのぎを削っていましたが、グローヴ氏は自社のPentiumブランドのシェアを食い合うことを覚悟で、ローエンド・低価格・低利益率をうたったCeleronシリーズのリリースを決定しました。

CeleronはPentium IIに比べると処理性能は落ちるため、最初は売れ行きがあまりよくありませんでしたが、L2キャッシュを搭載するなどの改良を施した第2世代Celeronが場合によってはPentium IIを超えるパフォーマンスを示すと判明し、その低価格もあってヒットします。Celeronの発売によって確かにCeleronとPentiumでシェアを食い合ってしまったそうですが、最終的にIntelは市場シェアの35%を獲得することができたとのこと。この結果はまさに、「『破壊的イノベーション』に基づいて新たな顧客を獲得し、市場シェアを拡大した」といえます。

by yum9me

同時に1991年から展開していた「Intel Inside(Intel入ってる)」のキャッチフレーズも浸透し、2000年前後にはIntelはMicrosoftと並んでデスクトップPCの代名詞的企業となり、デスクトップPC向けCPU市場の覇権を握りました。

そして、1987年からIntelの経営に携わっていたグローヴ氏は1998年にCEOを退き、2005年に会長を引退。同年にIntelのCEOに就任したのがポール・オッテリーニ氏でした。オッテリーニ氏は、当時Macの新しい展開を模索していたAppleと提携し、就任後早々に「Intel搭載Mac」を実現しました。

2006年に開催されたAppleの基調講演で、Intel搭載iMacが初めて発表された際に、Intelの作業服に身を包むオッテリーニ氏がシリコンを持って登壇した時の映像が以下のムービー。

First Intel Mac (10 Jan 2006) - YouTube


オールワース氏は「完全にIntelが勝利したように見えました。確かにAppleとIntelの取引は、Intelにとってこれまで実現できなかったほど重要でした。しかし、それは『IntelがデスクトップPC向けCPU市場を支配した』という意味ではありません。むしろ『Intelが次に何が起こるかを考えている企業との関係を築いた』という意味で重要だったのです」と述べています。

実はIntel搭載iMacを発表した1年後に登場した自社製スマートフォンであるiPhoneのチップを、Intelが開発する話も浮上しており、実際にIntelとAppleで協議もあったとのこと。

しかし、Intel製チップ搭載のiPhoneは実現しませんでした。その理由について、オッテリーニ氏はCEO退任1カ月前に行われたインタビューで、オッテリーニ氏は「心にとどめておいてほしいのは、IntelとAppleの協議はiPhoneが導入される前のことであり、誰もiPhoneが何をするものなのかを知らなかったということです。彼らが興味を持っているチップの中には一定の価格を払いたいと思っているチップがあり、その価格は我々の予測コストを下回っていたのです。私にはわかりませんでした。そのコストは数量で補えるようなものではありませんでした。しかし、今にして思えば、その予測コストは間違っていて、必要な数量は予想の100倍だったのです」と語っています。

Intelは当時すでにPDAや3G携帯電話向けに、ARMアーキテクチャベースの32ビットプロセッサであるXScaleをリリースしていました。もしIntelがこのXScaleからより電力効率を向上するような製品を開発し、iPhoneへの搭載に成功していたら、今とは違う未来があったかもしれません。

Appleは、近年はMacにIntel製チップを採用していましたが、2020年11月11日に自社開発SoC「M1」を搭載した初のMacを発表しました。

初のApple Siliconとなる「M1」チップが登場、5nmプロセスで製造された世界最速のCPU搭載 - GIGAZINE


技術系ニュースサイトのAnandTechが、Intel Core i9シリーズとApple SoCで、ベンチマークテスト「SPECint2006」計測によるパフォーマンス結果を比較した以下のグラフを作成しています。縦軸がパフォーマンス値で、横軸がチップのリリース時です。


そして、以下が1995年にクリステンセン教授が発表した「破壊的イノベーション」理論で示したグラフで、「最初は性能的に劣った技術でも、それが市場シェアを劇的に拡大することで、既存の技術よりもはるかに高速で改善されていく」というものです。オールワース氏は、Intel Core i9とApple SoCの比較グラフと非常によく似ていると指摘しています。


オールワース氏は、「AppleがM1を発表した時点がまさにIntelとAppleの線が交差した時です。そして、ARMベースのチップがIntelにとって最後の牙城であるサーバービジネス市場でシェアを拡大するのも時間の問題でしょう」と述べました。

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in ハードウェア, Posted by log1i_yk

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