サイエンス

研究者が「キツネザルの一種が長期にわたる宇宙旅行のカギを握っている」と考える理由とは?

by Allan Hopkins

近年は世界的に宇宙開発が活発化しており、NASAが2024年までの有人月面着陸を目指すアルテミス計画を推進しているほか、有人火星探査も現実味を帯びています。人類の宇宙進出が進む中、カールトン大学の研究者らは「長期にわたる宇宙旅行のカギを握っている」として、キツネザルの一種であるハイイロネズミキツネザルに着目しています。

Hibernating lemurs may be the key to cryogenic sleep for human space travel
https://theconversation.com/hibernating-lemurs-may-be-the-key-to-cryogenic-sleep-for-human-space-travel-148408

まずは大気圏の外、次は月、続いて火星という風に、人間が到達を目指す位置が地球から遠く離れていくにつれ、宇宙空間を移動する時間が長くなります。長期間の任務を実現するには宇宙飛行士を健康に保つ必要がありますが、宇宙空間は人間にとって過ごしやすい場所ではないと研究者らは指摘。


非常に寒い宇宙空間には酸素や重力が存在しない上に、絶え間なく降り注ぐ有害な宇宙線から保護してくれる大気や磁場もありません。また、地球の重力に適応して進化を遂げた人間が重力の少ない環境で長期間過ごすと、重力に逆らって働く必要がなくなるため、筋肉量や骨密度が低下するといった問題も発生します。

これらの問題を解決するため、人間は乗員を安全に保護する宇宙船を建造して、筋力トレーニング用の器具を設置するなどの対策を講じているほか、宇宙空間で過ごすことが人体に及ぼす影響の調査も行っています。しかし、免疫系視力への影響など、多くの医学的な問題に対処する有力な方法は開発されていません。研究者らはこれに加えて、宇宙船に積載する食料や物資の割り当てといったロジスティクス的な問題や、宇宙飛行中の長期間にわたる孤立の問題にも直面しているとのこと。


さまざまな長期の宇宙旅行に関するいくつかの問題を解決する可能性があるとして研究者らが注目しているのが、動物が代謝活動を大幅に抑えるか停止した状態で厳しい冬を乗り越える「冬眠」です。宇宙船に乗った人間を冬眠状態にして目的地まで輸送することができれば、長期間の孤立や健康上の懸念、宇宙船に積載する食料や水の量、宇宙船のサイズといった多くの問題を軽減することができると研究者らは主張しています。

冬眠状態で過ごす動物は、長期間にわたり食物を口にせず運動もしないものの、筋肉や骨密度の著しい低下を経験しないまま冬を乗り越えることができます。生命の維持に必要な生物学的機能だけを残し、多くのエネルギーを使う機能だけをオフにする能力は、遠方の星までの宇宙旅行を生き残る上で重要なカギを握っているとのこと。

しかし、残念ながら人間は冬眠を行う動物ではなく、「どうすれば人間を安全に冬眠状態にして、適切な時期に筋肉や骨を弱らせずに元に戻すことができるのか」という新たな課題があります。そこで研究者らが注目しているのが、人間と生物学的に類似している霊長類でありながら冬眠を行う、コビトキツネザル科ハイイロネズミキツネザルという動物です。

by Leonora (Ellie) Enking

ハイイロネズミキツネザルのユニークな特徴として挙げられるのが、食料が減って気温が寒くなると「体温を大幅に下げることなく冬眠状態に入ることができる」という点です。多くのほ乳類は冬眠状態の体温が10度以下に下がりますが、人間が10度以下の体温で生命を維持することは困難です。一方、ハイイロネズミキツネザルのように体温を保ったまま冬眠できれば、冬眠中の生命維持が容易になります。

体温を下げずに冬眠するハイイロネズミキツネザルの特殊な能力を支えているのが、遺伝子コードそのものを変更することなく遺伝子発現を調節するマイクロRNAです。ハイイロネズミキツネザルが遺伝子発現の調節に使うマイクロRNA戦略を利用することで、人間の冬眠を助ける可能性がある可逆的な変化が得られるかもしれないとのこと。

研究者らは、生命を維持するためにどの生物学的プロセスを継続するのか、そしてエネルギーを節約するためにどのプロセスを遮断するのかを制御するマイクロRNAの仕組みを調査しています。これまでの研究で、一部のマイクロRNAは冬眠中に筋肉の消耗を抑えたり、細胞死を防いだり、不必要な細胞増殖を減速または停止したり、燃料を糖から脂肪に切り替えたりすることがわかっているそうです。

また、マイクロRNAはあくまでも人間の冬眠を解決するパズルの一部に過ぎず、研究者らはハイイロネズミキツネザルが細胞をストレスから保護する方法や、冬眠を生き延びるエネルギーを蓄える方法についても調べているとのこと。「人間に対して実行可能だと注目されているRNAベースの新たな介入に、私たちの研究が貢献することを期待しています」と、研究者らは述べました。

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in サイエンス,   生き物, Posted by log1h_ik

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