サイエンス

血液の代わりに生理食塩水を流しこんで患者を急冷し治療後に蘇生するという手法が世界で初めて実施へ

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人間を急冷して仮死状態にし、外科的な治療を終えた後に再び体を温めて蘇生するという方法が、世界で初めて行われようとしています。血液の代わりに冷たい生理食塩水を入れることで体温を下げるという治療法は2019年11月時点で臨床試験段階ですが、患者の同意を必要とせずに行われるとのことです。

Exclusive: Humans placed in suspended animation for the first time | New Scientist
https://www.newscientist.com/article/2224004-exclusive-humans-placed-in-suspended-animation-fo
r-the-first-time/


人間を急冷し仮死状態にする治療法を研究しているのは、メリーランド大学医学部のサミュエル・ティッシャーマン氏らの研究グループ。ティッシャーマン氏らは、致死的な外傷を負った人々を蘇生するための臨床試験で患者を人工冬眠状態にする方法を開発しています。


この手法は正式には「Emergency Preservation and Resuscitation(緊急保存および蘇生/EPR)」と呼ばれており、メリーランド大学メディカルセンターに運ばれてきた患者のうち、被弾したり刺されたりといった外傷により心停止した人を対象に実施されます。これらの患者は呼吸をやめ半分以上の血液を失っており、その後助かる可能性は5%未満だとされています。

EPRは患者の体に血液代わりの冷たい生理食塩水を流し込み、患者を10~15度に急冷します。このとき、患者の脳はほぼ完全に活動を停止しているとのこと。その後、患者の体は急冷システムから離され、手術室へと移動。外科医は2時間かけて患者の外傷を治療したのちに、体が温められ、心臓が再起動されます。

人間の体温は通常37度前後であり、細胞はエネルギーを生み出すために常に酸素の供給を受けなければなりません。しかし、心臓が止まり呼吸もストップすると、血液が酸素を運ぶことが不可能になります。酸素がないと脳は5分で不可逆のダメージを負ってしまいますが、体温を低くすれば化学反応のペースを遅らせたり停止したりできるため、結果として必要な酸素量が減少します。これにより、脳にダメージを与えず、生存できる可能性が高くなるというのがEPRの仕組みです。

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ティッシャーマン氏は、EPRを受けた10人を、適格性はあったがEPRを受けなかった10人と比較するという臨床試験を計画。この臨床試験は既にアメリカ食品医薬品局(FDA)の認可を受けています。FDAは、EPRを受ける適格性を持った患者には代わりになる治療法が存在せず、そのままだと死亡することから、同意書の取得を免除したとのこと。研究チームは地域のコミュニティでディスカッションを行うほか、新聞広告で臨床試験について説明するなどして、ウェブサイト上で臨床試験からオプトアウトする方法を示しています。

ティッシャーマン氏は外科医としてのキャリアの初期に、心臓を刺された少年の死を経験しました。「十分な時間があれば彼を救うことができた」と考えたティッシャーマン氏は、患者の体を冷却することにより外科医の治療時間を増やすという方法を調査しだしました。動物実験では、急性外傷の豚を3時間にわたって冷却し、その間に縫合・蘇生を行うことに成功しています。

人体を急冷することによりどれだけの治療時間が生まれるのかは、まだわかっていません。また細胞が再び温められることで虚血再灌流傷害が起こる可能性も考えられます。ティッシャーマン氏はこの点について、「さまざな薬を組み合わせることで、ダメージを最小限にし、人工冬眠時間を延ばすことができるかもしれません。ただ、我々はまだ全ての虚血再灌流傷害の可能性を特定しているわけではありません」と述べています。

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なお、ティッシャーマン氏は、すべての臨床試験の結果を2020年末に発表したいと考えているとのことです。

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in サイエンス, Posted by darkhorse_log

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