クマの「冬眠しても筋肉を維持できるメカニズム」が人間の筋萎縮を防ぐカギとなる可能性
by Thomas Lefebvre
動物の一部は寒くて食料の少ない冬を、冬眠して過ごします。クマやコウモリ、ネズミなどが冬眠して体力を温存し、来る春を待つのですが、中でも特殊な「クマの冬眠のメカニズム」をマックス・デルブリュック分子医学センターのミヒャエル・ゴットハルト博士が解説しています。
Learning from the bears | MDC Berlin
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日本のエゾヒグマの近縁でもある、北アメリカに生息するハイイログマは、冬の期間に何カ月も冬眠します。ハイイログマが冬眠から起きて活動し始めるのは、3月から5月にかけてで、9月頃になると冬眠に備えて大量の栄養を摂取し始めます。そして、11月から1月にかけての期間、ハイイログマは冬眠します。冬眠時、ハイイログマの代謝と心拍数は平時と比べると低下し、排泄も一切しなくなります。そして、血中の窒素量は劇的に増加するため、インスリン感受性が高まるとのこと。
冬眠している間ハイイログマは大きな動きをしないにもかかわらず、冬眠から起きたハイイログマの筋肉が萎縮(筋萎縮)することはありません。それに対して、人間が冬眠時のクマと同じように数カ月にわたり体を動かさないでいた場合、筋肉はやせて衰えてしまいます。怪我などで長い間病院のベッドで療養したことのある人なら、筋萎縮により体を思うように動かせなくなってしまった経験があるはずです。
冬眠時のクマがなぜ筋萎縮を起こさないのかについて、ゴットハルト博士率いる研究チームは調査を行っており、同氏は「(ハイイログマの冬眠時のメカニズムは)人間の筋萎縮を防ぐことに役立つ」と主張しています。
by Thomas Lipke
ゴットハルト博士が率いる研究チームのメンバーであり、ハーバード医科大学の博士研究員でもあるDouaa Mugahid氏は、「筋萎縮は多くの状況で発生する問題です」「この研究の美しい点は、自然界ではどのように冬眠という厳しい条件下で筋肉機能を維持する方法が生み出されたのかを学ぶということでした」と語っています。
ゴットハルト博士が率いる研究チームは、ワシントン州立大学から冬眠中と平時のハイイログマの筋肉サンプルを入手し、これらを調べました。ゴットハルト博士は「最先端のシーケンス技術と質量分析を組み合わせることで、冬眠中とそうでない時の両方で、神経伝達物質やホルモンなどへの応答能が増大する『アップレギュレーション』もしくは『ダウンレギュレーション』する遺伝子やたんぱく質を特定したかった」と語っています。
調査の中で、ゴットハルト博士らは冬眠時のハイイログマのアミノ酸代謝に強く影響するたんぱく質を発見しており、その結果、ハイイログマの筋肉細胞には特定の非必須アミノ酸(NEAA)が多く含まれていることが明らかになっています。
by SI Janko Ferlič - @specialdaddy
ゴットハルト博士は「筋萎縮を示すヒトおよびマウスの筋肉細胞を実験したところ、細胞の成長はNEAAによっても刺激される可能性が判明しました」と語っていますが、高齢者や寝たきりの人の筋萎縮を防ぐには、丸薬や粉末といった形でNEAAを摂取するのでは「不十分」とのこと。
加えて、ゴットハルト博士は「明らかに、筋肉自体がNEAAを生成するということが重要です。そうでなければアミノ酸が必要な場所にまで到達しない可能性があります」と語っています。
これらの調査結果から、筋萎縮を防ぐための方法として「代謝経路を適切な薬剤で活性化し、人間の筋肉がNEAAを生成するように誘導すること」が挙げられています。
by James Barr
さらに、ゴットハルト博士ら研究チームは、筋肉のどの神経伝達経路を活性化することがNEAAの生成につながるかを調べるために、ハイイログマ・ヒト・マウスの遺伝子の活性を比較しました。なお、調査に使用された遺伝子情報は、高齢者や寝たきりの患者などの「筋萎縮の可能性がある人」および、筋萎縮しているマウスのものが使用されています。ハイイログマ・ヒト・マウスの遺伝子の活性を比較した理由について、ゴットハルト博士は「冬眠する動物と、そうでない動物とで、遺伝子がどのように異なる調整を行っているか知りたかった」と語りました。
また、研究チームは調査の中で「筋萎縮に影響のあるいくつかの遺伝子」を特定しており、マウスを使った実験でこれらについての調査を進める予定としています。なお、「筋萎縮に影響のあるいくつかの遺伝子」には、グルコースとアミノ酸の代謝に関与する遺伝子のPDK4とSERPINF1、概日リズムに関連する遺伝子のRORAなどが含まれており、「これらの遺伝子を不活性化することの効果を調べたいと思います」とゴットハルト博士は語りました。
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