人間の食べ物の味を覚えたクマは冬眠期間が短くなって老化が早まる可能性がある
by Eric Kilby
アメリカ全土に生息するアメリカグマはおよそ5~7カ月もの間、食事や排せつを一切行わずに巣穴の中で冬眠を行います。クマは冬眠時期が近付くと木の実などを食べて脂肪を蓄えますが、近年は人里に降りてきてゴミ捨て場をあさるクマも現れて問題となっています。ジャンクフードやお菓子など、砂糖やトウモロコシをたくさん含む加工食品の味を覚えたクマは冬眠期間が短くなり、さらには老化が加速しているかもしれないという研究結果が発表されています。
The cascading effects of human food on hibernation and cellular aging in free-ranging black bears | Scientific Reports
https://www.nature.com/articles/s41598-019-38937-5
Bears that eat human food may hibernate less and age faster | Science News
https://www.sciencenews.org/article/bears-eat-human-food-may-hibernate-less-and-age-faster
ウィスコンシン大学マディソン校のジョナサン・パウリ氏は、2011年から2015年冬にかけて、コロラド州に生息するアメリカグマが何を食べているのかを調査するため、州中のクマにGPSを取り付けてその行動をチェックしていました。すると、本来自然の木の実や動物を食べるはずのクマがゴミ捨て場をあさり、ドーナツやキャンディーなどの加工食品を食べていたことが判明しました。
by Rachid H
ジャンクフードやお菓子に多く用いられるトウモロコシやサトウキビなどの作物は、大気中に散在する炭素13という炭素の安定同位体を吸収し、濃縮します。そのため、トウモロコシやサトウキビでできた加工食品を食べると、野生植物を食べるよりも高濃度で炭素13を摂取することになります。そのため、砂糖やコーンスターチを使った加工食品への依存度が高いほど、体内の炭素13の量は増加する傾向にあります。
パウリ氏は、コロラド州の公園と野生生物局の監視下にあるメスのクロクマ30匹に注目し、それぞれの冬眠期間や細胞の老化状況を調べました。そしてクマの体毛に含まれる炭素13の濃度を調べた結果、高濃度であるほど冬眠する期間が短くなることがわかりました。
また、パウリ氏率いる研究チームは細胞の老化状況を測定するために、クマのテロメアの相対的変化について調べました。テロメアとは繰り返し配列を持つDNAとタンパク質からなる染色体の末端部分です。テロメアは体細胞分裂の際、染色体が複製を繰り返すたびに短くなっていくため、テロメアの長さは細胞老化の目安と考えられています。
冬眠期間が通常より短いクマのテロメアを調べたところ、他のクマよりも早く短縮していることがわかったとのこと。なぜ冬眠が短いとテロメアの短縮速度が上がるのかは明らかになっていませんが、冬眠中のクマは代謝機能が低下するため、冬眠が短くなることで老化のスピードが上がってしまうのではないか、と研究チームは推察しています。
ただし、論文共著者であるレベッカ・カービィ氏は、今回の調査結果で得られた証拠は「示唆に富む」としながらも、「調査対象だった30匹のクマは決して研究に協力的だったわけではなかったため、『砂糖やコーンスターチをたっぷり含んだ加工食品に依存すること』と『テロメアの短縮スピードが上がること』に直接的な関係があるとは必ずしも断言できません」と述べていました。
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