サイエンス

SF作家が本気で考えた「小惑星の資源を採掘するための宇宙船」とは?


アメリカのSF作家であるダニエル・スアレス氏は元情報技術コンサルタントであり、コンピュータープログラムが現実世界の脅威となる様子を描いたSF小説「Daemon」、大量生産された自律式ドローンや人工知能が投入された戦争を描く「Kill Decision」などの著作で知られています。2019年に発表した「DELTA-V」では、世界初の商業的な小惑星資源の採掘プロジェクトを描いており、作中に登場する「Konstantin」という名称の「小惑星資源採掘船」の構造について、スアレス氏本人が解説しています。

Delta-v: Designing the Asteroid Mining Ship 'Konstantin' (minor spoilers)
http://daniel-suarez.com/deltav_design.html

スアレス氏は、地球の近くに存在する小惑星が太陽系における人間の行動範囲を拡大する触媒になり得ると述べ、人間やその他の生物の未来を切り開く可能性があると主張しています。その一方で、小惑星の資源を採掘することは困難であり、地球上で行われている採掘とは全く違った方法を発明する必要があるそうです。


小惑星はほぼ完全な真空の中を移動する巨大な山であり、表面に採掘器具を固定することも難しく、採掘に従事する宇宙飛行士は太陽フレアによって放出される宇宙線や微小重力の影響を受け続けるとスアレス氏は指摘。また、孤立した環境における心理的影響やハプニングが発生した際の対処なども問題であり、小惑星の採掘は非常に困難なミッションといえます。

「DELTA-V」は小惑星・リュウグウの資源採掘任務にあたる人々を描いたSFスリラーであり、物語において主人公たちが乗り込む小惑星資源採掘船の「Konstantin」が大きな役割を果たしています。スアレス氏はKonstantinの構造を設計するために詳細な調査を行っただけでなく、物理学者・航空宇宙技術者・小惑星採掘事業の起業家など、さまざまな専門家と協議を重ねたとのこと。

こうして設計されたKonstantinの外観はこんな感じ。中央のハブから3本のアームが突き出ており、その先端に小さなステーションが付いています。各アームは長さ106mであり、中央のハブを中心としてアーム部分が1分間あたり3回のスピードで回転することで、アーム先端のステーションでは地球相当の重力が発生する仕組みです。


3つあるステーションのうち2つは乗組員の居住スペース、1つはさまざまな実験用ステーションとなっており、コンピューター制御のCNCフライスや3Dプリンター、化学・地質学・ロボット工学の実験室などが含まれています。アーム内はトンネルになっており、乗組員は各ステーションや中央のハブを行き来することが可能です。3本あるアームが中央ハブから伸びる角度が非対称なのは、居住用スペースと実験用ステーションの質量の違いを補正するためだとのこと。また、アームにはウエイト(おもり)も搭載されており、乗組員や物資の移動によって変動したバランスを調整するため、自動でアーム上を移動する仕組みになっています。


リュウグウに接近すると、Konstantinは乗組員を太陽フレアから守るため、船の大部分をリュウグウの影になる部分に隠し、太陽光発電アレイを備えるマストだけを太陽光が当たる場所に突き出します。また、リュウグウの重力は地球の6万2000分の1しかないため、Konstantinは重力を利用してリュウグウを周回するのではなく、ステーションの位置を小惑星から得られたガスを燃料とする自動制御で保つとのこと。


中央ハブの下部に位置するのは、大型の光学マイニングロボットである「Honey Bee」です。これは実在する小惑星採掘企業のTransAstra Corporationが設計したロボットであり、小惑星の表面から削り出した岩石を収納し、2つの放物面反射鏡を使って太陽光を集めて岩石を加熱することで表面を破砕するとのこと。岩石から得られた揮発性物質やレゴリスはその後で処理されます。Honey Beeの下に見えるのが反射型のソーラーシールドであり、Konstantinの燃料となるメタン液体酸素の推進剤を影に保っています。


また、メインエンジンを使用する際には勢いでアームが折れないように、3本のアームが折り畳まれた状態でロックされます。メインエンジンの燃焼は、地球から離れる時とリュウグウの軌道にKonstantinの軌道を一致させる時の2回行われますが、それ以外の安定時はアームが広げられ、乗組員は重力を感じることができるとのこと。


中央ハブの上部に突き出ているのは……


Konstantinの船外に出るためのエアロックです。アーム先端のステーションから中央ハブに向かうにつれて重力は減少し、中央ハブでは微小重力環境となるため、乗組員たちは中央のトンネルを移動してエアロックに到達することが可能。なお、ステーション同士を行き来するには約15分ほどかかるとのこと。


乗組員の居住スペースとなるステーション内はこんな感じ。ステーションの壁は微小隕石の衝突にも耐えられる厚さ0.5mのラミネート材で作られており、上層階がリビング、下層階がバスルームや4000リットル入りの水タンク、酸素発生器などの収納スペースとなっています。


上層階にはシステムキッチンやトレーニング用のマシン、医療用設備などが備えられ、下層階には作業用スペースや水耕栽培キットなどがあります。上層階と下層階を貫く中央部には、乗組員用のベッドが配置されていました。


下層階にある水耕栽培キットは、魚の養殖と水耕栽培を組み合わせた「アクアポニックス」となっている模様。なお、下層階から上層階へは壁に設けられたはしごを使って移動できる構造となっていました。

この記事のタイトルとURLをコピーする

・関連記事
宇宙から無限に金属鉱物を得る「アステロイドマイニング」とは? - GIGAZINE

月の資源を採掘するのは現実的なことなのか? - GIGAZINE

小惑星に宇宙船で飛びついて目的地までナビゲートして宇宙で資源を得るというとんでもない計画にNASAが出資 - GIGAZINE

小惑星採掘に暗雲か、投資に見あうだけの成果は得られにくいとの調査結果 - GIGAZINE

星から資源を取り出して自己増殖しながら銀河全体に広がるように人類が進出する「フォン・ノイマン・マシン」とは? - GIGAZINE

in サイエンス, Posted by log1h_ik

You can read the machine translated English article here.