生き物

「放射性の塗料を塗ったキツネ」を日本に放す作戦が第二次世界大戦で検討されていた


太平洋戦争の火種となった1941年12月8日の真珠湾攻撃で、日本軍からの奇襲によってアメリカ軍は大きな損害を受けました。この真珠湾攻撃に刺激されたアメリカ側は、日本をどうにかして出し抜きたいと思うあまり、珍妙な作戦を多く考案。その中でも特に際立って珍妙な作戦が「放射性塗料を塗りたくったキツネを日本中に放す」というものだったと、科学ニュースサイトのSmithsonian Magazineが解説しています。

The Unsuccessful WWII Plot to Fight the Japanese With Radioactive Foxes | History | Smithsonian Magazine
https://www.smithsonianmag.com/history/unsuccessful-wwii-plot-fight-japanese-radioactive-foxes-180975932/

「アメリカ情報機関の父」とも称されるウィリアム・ドノバンは第二次世界大戦時に、アメリカの中央情報局(CIA)の前身となる戦略諜報局(OSS)のトップとして、日本やドイツ、イタリアを出し抜くための作戦を科学者たちに探させていました。そこで、爆発性のホットケーキミックスや生きたコウモリに巻き付けるための焼夷弾、捕虜から情報を引き出すための薬、糞便の臭いを再現するスプレーなど、奇妙な作戦が多く考案されましたが、その中でも特に奇抜だった作戦の1つが「ファンタジア作戦(Operation Fantasia)」です。

ファンタジア作戦は、OSSの心理戦戦略家だったエド・サリンジャーが発案したもの。東京で貿易業を営んでいたこともあったサリンジャーは、日本語を理解できる上に日本文化にも精通しており、特に日本のおとぎ話を研究していたことを見込まれ、OSSに雇用されたといわれています。

サリンジャーが1943年に考案したファンタジア作戦は、「魔力を持つキツネの精霊を凶兆として示すことで、日本人の士気を破壊する」というものでした。サリンジャーはメモの中に「日本人は迷信、悪霊信仰、不自然でおっかない兆候に大きく影響される」と書き記しています。


OSSは、日本人をこわがらせるようなキツネを作り出すため、キツネの形をした風船やキツネの鳴き声を真似する楽器を開発しましたが、いずれも実用的ではないと判断されたとのこと。そして、「中国やオーストラリアで捕まえたキツネを蛍光塗料で全身塗装し、日本国内に放す」というアイデアが採用されたそうです。

蛍光塗料には、放射性物質であるラジウムを含む塗料が採用されました。放射性の蛍光塗料をキツネの毛皮に塗ることができるかどうかをテストするため、OSSは動物園で飼育されているアライグマでテストしたそうです。その後、キツネ30匹を蛍光塗料で塗りたくり、ワシントンD.C.の公園にこっそり放してみたところ、夜の公園を散歩する人が「幽霊のような動物が飛び跳ねている!」と悲鳴を上げて警察に通報したため、「ファンタジア作戦は日本人にも十分通用する」と判断されました。


ただし、ファンタジア作戦を成功させるためには、「キツネをどうやって日本に上陸させて展開させるか」という課題が残っていました。この問題を検証するため、OSSはキツネを河口付近までボートで連れ出し、海の中に投げ込んで陸まで泳がせる実験を行いました。実験の結果、すべてのキツネが陸まで泳ぎ切ることができ、上陸は十分可能……かと思われましたが、体に塗った蛍光塗料はほとんど海水で洗い流され、さらに陸地に到着した途端、キツネたちは自分の毛皮をなめてきれいにしてしまったため、失敗に終わりました。

また、どうにかして日本にキツネを運ぶことができたとしても、OSSはキツネを訓練したことがないため、キツネを思い通りに動かして狙った場所に出現させることは不可能。サリンジャーは、「とにかく大量のキツネを放てば、数匹くらいは意図した場所に出現する」と述べ、キツネが足りなければミンクやアライグマ、コヨーテを使うことを提案しています。

さらにサリンジャーは、「蛍光塗料を塗った人間の頭蓋骨を、同じく蛍光塗料を塗ったキツネの剥製に装着して、風船やタコで空中に持ち上げて日本人の士気をくじく」という奇妙なアイデアもメモに残しています。加えて、すべての計画がうまくいかなかった場合にそなえて、サリンジャーは「連合国側に味方する日本人に『キツネつき』を演じさせる。『キツネにとりつかれた』と奇声を叫ばせながら街中を走り回らせる」というとんでもない最終手段も考案していました。


しかし、1943年9月24日、ファンタジア作戦の指揮官だったOSS研究開発部門主任のスタンリー・ラヴェル博士が、ファンタジア作戦の実現可能性と非合理性を理由に中止を決定しました。ラヴェル博士は、「ナチス・ドイツ総統だったアドルフ・ヒトラーの食べ物に女性ホルモンを混入させてトレードマークの口ひげをなくして威厳を失わせる」など、数々の奇抜な作戦を考案したことで知られており、「モリアーティ教授」と呼ばれていたほどの人物。そんなラヴェル博士が続行不可能だと判断したということは、ファンタジア作戦はOSS内部の人間から見てもよっぽど非常識に思われていたのかもしれません。

国際スパイ博物館の学芸員であるヴィンス・ホートン氏は「ファンタジア作戦は、アメリカ軍や情報機関、政治指導者の多くが日本文化に対して人種差別的かつ民族中心主義的で、軽視している様子が見てとれます」と述べています。

この記事のタイトルとURLをコピーする

・関連記事
なぜ「沈没船の鋼」が放射線を検出するガイガーカウンターに用いられてきたのか? - GIGAZINE

ソ連は3年燃え続けたガス田の大火災を消すために核爆弾を使ったことがある - GIGAZINE

情報も物資も制限された東ドイツからDIYで熱気球を作って亡命した当事者のギュンター・ヴェッツェル氏にインタビュー - GIGAZINE

第二次世界大戦の戦禍を生き延びたワニが84歳で大往生、その波乱万丈な一生とは? - GIGAZINE

360年前から国会議事堂の壁に眠っていた「秘密の抜け道」が発見される - GIGAZINE

国際的な暗号機メーカーがアメリカとドイツの諜報機関と協力して通信を傍受していたと判明 - GIGAZINE

タイの焼きそば「パッタイ」は独裁政治から生まれた - GIGAZINE

in 生き物, Posted by log1i_yk

You can read the machine translated English article here.