タイの焼きそば「パッタイ」は独裁政治から生まれた

by fan4tian2

「パッタイ」はライスヌードルを卵や野菜、海鮮類と共に炒めた料理で、トムヤムクンやゲーン(タイカレー)と並んでタイ料理を代表するメニューの1つです。そんなパッタイの誕生にある政治的背景について、Atlas Obscuraが解説しています。

The Oddly Autocratic Roots of Pad Thai - Gastro Obscura
https://www.atlasobscura.com/articles/who-invented-pad-thai

70年ほど前まで、タイでは麺料理があまりポピュラーではありませんでした。麺自体は何百年も前に中国から伝承していたものの、「ライスヌードルの炒め物」として地方の郷土料理としてひっそりと伝えられているのみで、当時はタイに住むほとんどの人が存在を知らなかったとのこと。

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第二次世界大戦勃発直前、東南アジア諸国の多くはイギリスやフランスの植民地となっていました。タイ王国はどこの植民地にもなっていなかったものの、フランスの植民地だったベトナム・カンボジアと隣接しており、1939年にはフランスと領土問題で紛争が勃発。東南アジアをはじめとした植民地から豊富な資源を得ているフランスに対して、タイはかなりの苦戦を強いられていました。

当時タイの首相を務めていたプレーク・ピブーンソンクラームは、植民地だらけの東南アジアの中でタイの偉大さを維持するためには「国民の生活水準を上げる必要がある」と主張しました。実際に、ピブーンソンクラームは議会で「私たちは、他の国々と同じように文化的でなければなりません。タイは無力で、すぐに植民地化されてしまうでしょう。しかし、私たちが高度な教養と文化を身につけていれば、私たちは正当性および独立性を維持し、完全にタイでありつづけることができるでしょう」と演説しています。

by Wikimedia Commons

そして、ピブーンソンクラームは「タイの国民文化こそが、欧米諸国が群雄割拠するアジアの中でタイが独立を維持するためには必要だ」「栄養価が高いライスヌードルを普及させることが食糧難に有用だ」と主張し、ライスヌードルを使ったパッタイを考案し、国民食として積極的に推奨しました。なお、パッタイ(Pad Thai)とは「タイ炒め」という意味で、国の名前を冠しています。

by Alyssa Kowalski

パッタイの普及を推進したピブーンソンクラームは、1940年代には政治の実権をほぼ掌握しており、国民食のみならず、国民の服の種類や色にまで口を出すまでになります。しかし、あまりの独裁ぶりに反感を持つものは多く、最終的に議会から不信任案を突きつけられたピブーンソンクラームは政界を一時引退。そして、ピブーンソンクラームの行っていた政策はことごとく廃止されました。

ただし、「パッタイを国民食として推奨する」という政策だけは撤回されなかったとのこと。これは実際にパッタイが食糧問題に対して有効だったこと、そしてパッタイの製造や調理が第二次世界大戦終結後の失業問題の解決として期待されたことも大きく影響しています。政府が全力でパッタイを後押しすることはなくなりましたが、国民が既にパッタイに慣れ親しんでいたことや社会の需要にマッチした結果、無名の地方料理を原型としたパッタイはタイを代表する料理として知られるようになりました。

by Bryon Lippincott

Atlas Obscuraは、「たとえ独裁者によって選ばれたメニューだったとしても、米粉の麺・豆腐・卵・ナンプラー・もやし・ライムで作られるパッタイは、タイが豊かで個性的な文化を持った国であり、一度は訪れる価値のある場所であることを宣伝しています」と述べ、ピブーンソンクラームがもくろんでいた本来の目的は世界中で果たされていると論じました。

なお、ピブーンソンクラームの息子は「昔から父は、家政婦がキッチンで作ったオリジナル料理のパッタイが本当に大好物で、そればかり食べていました」と証言しています。