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「カレー」がイギリスの食文化に受け入れられて広まった理由とは?

by Ewan Munro

寒冷な気候で養分の乏しい土地を抱えるイギリスは、世界的にも「食文化が貧しい」と揶揄されることが多く、フランスの元大統領ジャック・シラク氏に「あんなにまずい料理を作る国民は信頼できない」と言い放たれてしまったこともあるほど。しかし、かつてインドやパキスタンを支配していたイギリスには独自の「カレー」が多く存在します。異国の料理から生まれたカレーがなぜイギリスの食文化に定着したのかを、BBCがまとめています。

The men and women who brought curry to Birmingham - BBC News
https://www.bbc.co.uk/news/uk-england-birmingham-42542081


イギリスにインド料理とスパイスが伝わったのは17世紀頃とされていて、1747年には既に「カレー」のレシピが出版されています。しかし、スパイスは当時高級品であったことから、カレーを口にすることができたのは一部の上流階級だけで、一般市民が口にすることはできませんでした。その後。18世紀末にはカレー粉が販売され、一般家庭でもカレーが作られるようになりましたが、インドやパキスタンで食べられているような料理とはほど遠いものでした。

イギリス人が本格的にインド料理に触れるようになったのはそれからおよそ150年ほど後のこと。1940年頃までイギリス海軍の船で働いていたアブドゥル・アジズ氏は、ロンドンから北西に160キロメートルほどに位置する工業都市・バーミンガムに初めて入植したバングラデシュ人でした。アジズ氏はバーミンガム市内のカフェでウェイトレスをしていたヴァイオレットさんと結婚し、レストランを開店する資金を貯めながら、夫婦で工場に勤務していました。

アジズ氏は1945年に念願のレストラン「ダージリン」をバーミンガムの一角にオープンしました。ダージリンの近所には地元の警察署があり、警察官がこぞって食べに来ていたそうで、ダージリンのカレーの評判は、警察官から口コミで裁判官や弁護士などにも広がっていきました。やがて、アジズ氏の作るカレーライスは看板料理となり、ダージリンは地元の住民に愛される名店となりました。


また、仕事が見つからないバングラデシュやパキスタンからの入植者が店の評判を聞きつけて、「働かせてほしい」とダージリンを訪れることも多かったそうです。アジズ氏は入植者を受け入れ、店の二階に住まわせながらシェフやウェイターとして雇っていました。ダージリンからは多くのカレー職人が羽ばたいていき、バーミンガムに「カレー」という異国の料理を普及させました。同時にバングラデシュの強いコミュニティが地元に生まれました。

1960年頃には、バーミンガムのバングラデシュ料理店「ジンナ」がカレーの持ち帰りと宅配サービスを提供し始めて話題となりましたが、この持ち帰りと宅配サービスはひょんなことから生まれたものでした。ジンナでは鶏肉・牛肉・エビ・レンズ豆・ジャガイモなどのさまざまな種類のカレーを提供し、好評を博していて、多くの常連客を抱えていました。その常連客の中の一人が、ロックバンド「レッド・ツェッペリン」のドラマーだったジョン・ボーナムでした。

by Dina Regine

当時のボーナムはまだレッド・ツェッペリンに加入する前で、さまざまなバンドを渡り歩きながらドラムを演奏していました。ボーナムはある日、レストランに行けないという常連のためにカレーを直接届けることを思いつきました。「客が何かしらの都合でレストランに行けないと言ってたんだ。だから俺は『俺に電話をくれたらカレーをあんたのところに持って行くよ』って言ったんだ。するとカレーの宅配を頼む客がどんどん増えてきたから、レストランでカレーを食べている時間よりも誰かにカレーを届けてる時間の方が長くなったよ」と、ボーナムは語っていたそうです。ボーナムのひらめきから、バーミンガムではカレーのお持ち帰りや宅配サービスが普及し、より多くの人が気軽にカレーを楽しめるようになりました。

1957年、ヌルジュマン・カーン氏は、バーミンガムに住むいとこを頼ってバングラデシュから移住しました。カーン氏はロンドン郊外にある、一流レストランの店員が食事を提供するためのさまざまなマナーや技術を習得し、バーミンガムにあるカレー店の商売スタイルに大きな影響を与えました。さらに、知り合いの紹介でインド料理店のマネージャーとなり、新しいメニューを考えたり、さまざまな料理を暖かいまま提供するシステムを考案したりしました。これによってインド料理店はイギリスでも大好評を博し、同時にカレーがバーミンガムだけではなく、ロンドンの一般大衆の間でも認知度を上げていくこととなりました。

「レストランにくる人のほとんどが、インド料理の味を知っているインド人やバングラデシュ人で、イギリス人は当時インド料理をほとんど食べませんでした。イギリス人にインド料理を試してほしいと問いかけて、インド料理の世界を紹介していったのです」とカーン氏は語っています。

by Karsten Seiferlin

今や、イギリスのカレー店で働くバングラデシュ人はおよそ15万人を超えるといわれていて、イギリス全土には9000軒以上のカレー店が存在しています。イギリスのカレー文化は、バーミンガムで成長したインド人・パキスタン人・バングラデシュ人のコミュニティによって支えられているといっても過言ではありません。

なお、現代のバーミンガムでは「バルチ」と呼ばれる、中華風の鉄鍋に入ったパキスタン風のカレーが名物料理となっています。バルチは1980年頃にパキスタン料理店「アディル」で考案されたメニューで、瞬く間に人気が爆発。バーミンガム市内にはバルチをふるまう店が50店舗以上存在し、インド人・パキスタン人が多く住む地域は「バルチ・トライアングル」と呼ばれるようになりました。バルチの人気はバーミンガムにとどまらず、ロンドンやマンチェスターでもバルチを出す店が増えているそうです。

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