サイエンス

人はなぜ強制された時より自主的に取り組む時の方が速く学べるのか?が科学的に示される


私たちの行動にはさまざまなバイアスがかかっており、機械のように一定の判断基準に基づいて選択や行動を行うことは難しいもの。新たな研究では、人は選択を強制される時よりも自主的に選択できる時の方が学習速度が上がることが示されました。

Information about action outcomes differentially affects learning from self-determined versus imposed choices | Nature Human Behaviour
https://www.nature.com/articles/s41562-020-0919-5.epdf

We Learn Faster When We Aren't Told What Choices to Make - Scientific American
https://www.scientificamerican.com/article/we-learn-faster-when-we-arent-told-what-choices-to-make/

人の認知を変える有名なバイアスには、認識を「罰」よりも「報酬」に向かわせるポジティビティ・バイアスや、反証を無視して自分の仮説を支持する情報ばかりを集める確証バイアスなどがあります。

フランス国立保健医学研究所のStefano Palminteri氏らの研究チームは、このようなバイアスが人の選択にどのような影響を与えているのかを調べるために複数の実験を行いました。


Palminteri氏は実験において、スクリーン上に2つのシンボルを表示して被験者に見せました。この実験で被験者はキーを押して2つのうち1つの画像を選択することでポイントを取得し、実験の最後にたまったポイントは現金化されることとなります。なお、選択するシンボルによって得られる得点は異なり、トライ&エラーを繰り返すことで被験者は高得点のシンボルがどれかを理解できるように設計されていました。

さまざまな条件を付けて実験を繰り返すことで判明したのは、まず、人は自由に選択できる環境下において、ポイントを削除するような「罰」を与えるシンボル方よりも、高得点の「報酬」を与えるシンボルを速く覚えられるということ。これはポジティビティ・バイアスのように見えますが、実験において被験者は「加点要素になるシンボルを選択すること」(ポジティブ)と、「減点要素になるシンボルを選択しないこと」(ネガティブ)の両方から学習すると示されたため、この現象がポジティビティ・バイアスである可能性は排除されるとのこと。研究者は実験で示された現象は「肯定的な結果と否定的な結果の両方から自分が正しいことを確信していく」ものであることから、確証バイアスであるとみています。


しかし、スクリーン上にシンボルを映し出す時に、コンピューターが被験者に対してどちらを選択するかを指示する「強制選択」の実験を行ったところ、被験者はコンピューターに従ってキーを押すようになり、確証バイアスが消失したとのこと。また、自由に選択できた時に比べて、強制選択の実験では学習速度が遅くなることも確認されました。この結果は、親に強制されてピアノを練習している子どもの学習速度がなぜ遅くなるのかを説明するとのこと。

実験において確証バイアスは選択を制限されなかった場合にだけ現れたため、研究者らはこの現象を「選択確証バイアス」と名付けました。選択確証バイアスは報酬の大小にかかわらず現れたため、細かな条件の変化によって調整されるものではないとみられています。

また、Palminteri氏らがコンピューターシミュレーションを行ったところ、選択確証バイアスはさまざまな環境において安定した学習を行うためのアドバンテージを提供することが示されました。短期的にみれば選択確証バイアスによって間違った決断や間違った信念を抱いたとしても、長期的みれば、選択確証バイアスは人が自分の選択や結果から学習する助けになるとみられています。

研究には参加していないイエール大学Philip Corlett氏は「論文は、このバイアスが必ずしも不合理なわけはなく、世界について私たちに教えてくれる有益なメカニズムであると示しています」「自分は経験を積み上げてきたと感じることは強力であり、不測の事態にあっても自分の信念を強く持つことに役立ちます」と、選択確証バイアスが人のコントロール感と関係することを示唆しました。


一方で、人がコントロール感を持つことは学習によい影響を与えることもありますが、行きすぎると妄想的思考にもつながります。エイリアンに誘拐されるという考えを持つ人や、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)予防のマスク着用に強く反対する人にもこの傾向がみられるとのこと。今回の研究結果を踏まえて考えると、このような妄想的思考の傾向が強い人は、過去に自分の間違った考えを補強する何らかの経験を経ているものとみられます。ただしこの仮説については実証されていないので、今後の研究を必要とするところ。

2020年8月に発表された研究では訓練を積んで命令を下す立場にある上級士官候補生は、上級士官候補生に従う民間の士官候補生と比較してより大きなコントロール感を報告することが示されました。このように、自由選択とコントロール感の関係は過去にも示されており、それが学習にどう影響を与えるかを含めて、さらなる研究が求められています。

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in サイエンス, Posted by darkhorse_log

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