「犯人追跡中の警察官が車両で黒人少年をひいた上に全く別の黒人少年たちを逮捕した」との報告
黒人男性のジョージ・フロイド氏が警察官による拘束中に死亡した事件を受け、アメリカ各地で抗議デモが発生しています。そんな中、新たに公益を目的とした非営利の調査・報道機関であるProPublicaの副編集長を務めるEric Umansky氏が、「警察車両が黒人少年にぶつかり、そのままハロウィーンで出歩いていた全く別の黒人少年たちを逮捕した様子を自分の家族が目撃した」と明かしました。
My Family Saw a Police Car Hit a Kid on Halloween. Then I Learned How NYPD Impunity Works. — ProPublica
https://www.propublica.org/article/my-family-saw-a-police-car-hit-a-kid-on-halloween-then-i-learned-how-nypd-impunity-works
2019年のハロウィーンに、Umansky氏の妻と6歳の娘がニューヨーク市のブルックリン区を歩いて帰宅していたところ、突然サイレンを鳴らしたニューヨーク市警察の車両が車道を走っていくのを見たとのこと。車両は一目でパトカーとわかるカラーリングが施されていなかったそうですが、十代の少年たちを追いかけている様子だったそうです。
警察はこの付近で発生した「10代の少年グループが他の少年を殴ったり蹴ったりし、携帯電話を盗んだ」という強盗事件の捜査中で、警察官らは少年たちの行方を捜索していた模様。警察車両は少年グループを追い詰めましたが、車両が少年に接触し、少年はボンネットに乗り上げて地面にたたき付けられてしまったそうです。しかし、地面にたたき付けられた少年はそのまま立ちあがって逃げだし、警察官らは少年たちを見失ってしまいました。
やがて警察官らは、この付近をたまたま通りかかった別の少年グループに目をつけました。Umansky氏の妻や周辺にいた人々は、この少年たちと先ほど逃げて行った少年たちは関係ないようだと証言しましたが、逃げて行った少年グループとこちらの少年グループがいずれも黒人だったからなのか、警察は5人の少年たちを映画館の壁に並べて尋問を開始。尋問の結果、たまたま家族が近くにいた2人は解放されましたが、家族が近くにいなかった15歳、14歳、12歳の少年3人はそのまま逮捕されて警察署に連行されてしまったそうです。なお、尋問された少年たちはこの付近で「トリック・オア・トリート」を行い、お菓子を集めて回っていただけだったとのこと。
by danielvalle5
妻に呼ばれて途中から現場に駆けつけたUmansky氏も、21時過ぎにパトカーに乗せられる少年たちの姿を目撃していました。解放された少年の家族は、逮捕された少年たちに「連絡を入れたいから家族の電話番号を言ってくれ」と呼びかけたとのことですが、警察官はパトカーの窓の前に立って電話番号を伝えるのを阻止しようとしたとのこと。結果的に、解放された少年の家族が逮捕された少年たちの家族と連絡を取ることができ、この一件を知らされた家族は子どもが連行された警察署に向かうことができました。
Umansky氏も逮捕された少年たちの家族と共に警察署へ向かいましたが、家族ですら少年たちとの面会は許されなかった上に、警察署に立ち入ることすら禁止されてしまったとのこと。最終的に警察は少年たちが強盗犯ではないことを確認しましたが、少年たちが解放されたのは午前0時45分という非常に遅い時間でした。家族はこの一件についての書類や記録を与えられず、対応した警察官の氏名も知らされませんでした。
今回の一件について調べることにしたUmansky氏は、ニューヨーク氏警察の広報担当者であるAl Baker氏と連絡を取りましたが、警察の行動に問題はなかったとの回答が返ってきたとのこと。逮捕された少年たちは警察の公務に抵抗しており、パトカーが犯人の少年にぶつかったという事実もないとBaker氏は答えました。しかし、Umansky氏の妻だけでなく、他の人々も同様の場面を目撃したとUmansky氏が問いただしたところ、「1人の男が現場から逃げ出す際、停まっていた警察車両にぶつかりました」と回答が変化したものの、やはり警察車両の方から少年にぶつかったことは否定したそうです。
実際にUmansky氏が警察に逮捕されてしまったDevrin君という少年に話を聞いたところ、Dervin君は警察車両が一目でパトカーとわかるものではなく、追いかけてきたのが私服警官だったため、警察官に追われているとは知らず逃げてしまったと答えました。なお、私服警官はテーザー銃を突きつけてDervin君の動きを止め、手錠をかけて拘束して警察署まで連行したとのこと。なお、Dervin君の母親はブルックリンの公立学校で学校駐在警察官であり、ニューヨーク市警察のために働いている立場でした。
by Anthony Quintano
ニューヨーク市には、Civilian Complaint Review Board(CCRB)と呼ばれる「警察を監視するための独立機関」が存在しており、ニューヨーク市警察に対する苦情の調査などを担当しています。今回の事件は地元メディアでも報じられたため、Umansky氏は事実関係が明らかになることを期待していたとのことですが、CCRBは処理するべき業務量に対して人員不足という実態があるそうです。
CCRBは1年間におよそ7000件もの警察に対する苦情を受けていますが、これらを調査する人員は140人程度であり、問題の調査に関してもニューヨーク市警察の影響が及びます。たとえば、ニューヨーク市警察は警察官の体にボディカメラを取り付けており、対処した事件に関する映像がしっかり記録されていますが、この映像へ自由にアクセスする権限は、CCRBの捜査官には与えられていないとのこと。
以前はCCRBの捜査官がニューヨーク市警察に映像をリクエストし、ニューヨーク市警察が許可した映像のみが送信されてくるシステムでした。このプロセスには時間がかかり、リクエストから映像を入手するまで3カ月以上もかかるケースも少なくなかったそうです。近年、このプロセスに変更があり、CCRBの捜査官はニューヨーク市警察立ち会いの下で映像をチェックできるようになりましたが、映像チェック時には9ページにも及ぶ秘密保持契約にサインしなければならず、映像の録画も禁止されています。CCRBの捜査官はメモを取ることしか許可されていません。
警察の行動を独立機関が監視するシステムはワシントンD.C.やサンフランシスコ、ニューオーリンズなどに存在しますが、いずれの機関も警察官が装着していたボディカメラの映像に直接アクセスできるそうです。
by katie chao and ben muessig
ニューヨーク市のビル・デブラシオ市長はこうしたCCRBの問題を解決するため、近年はCCRBの予算を増やすなどの対策を行ってきましたが、新型コロナウイルスの流行によって2021年度は予算が6%減少される見込みだとのこと。この指摘に対し、デブラシオ市長は予算削減が実施されるのは1年間だけだと回答しています。
また、たとえCCRBが首尾よく調査を実施して警察官の不正を突き止めたとしても、実際に処罰を下すのは警察の委員会であるため、ニューヨーク市警察はCCRBが推奨する処罰を無視することができます。事実、CCRBが処罰を求めた深刻な事件のうち、3分の2では処罰が拒否されているそうです。たとえ処罰が下されたとしてもせいぜい「休暇の削除」が最大限であり、本来は禁止されている絞め技をかけた警察官でも30日の休暇を失う程度だとのこと。
最近の警察に対する反発の高まりを受け、デブラシオ市長はニューヨーク市警察の懲戒記録をオンラインで公開し、深刻なケガや死亡事例に発展したケースについては、速やかにボディカメラの映像を共有して調査を行うといった改革を発表。しかし、こうした変更も警察の委員会が持つ裁量を制限するものではないとUmansky氏は指摘しました。
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