サイエンス

「娯楽がないほうが退屈を感じなくて済む」という実験結果が発表される、一体なぜなのか?


新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行に伴う外出自粛やイベントの中止などで、多くの人が退屈に苦しんでいますが、中にはほとんど退屈を感じていない人もいます。そんな中で発表された「228人の大学生をわざと退屈な状況に置く」という実験の結果から、退屈を感じるケースと感じないケースの違いが判明したと報告されました。

PsyArXiv Preprints | Rich Environments, Dull Experiences: How Environment Can Exacerbate the Effect of Constraint on the Experience of Boredom
https://psyarxiv.com/58g2m/

The Boredom Paradox - Scientific American Blog Network
https://blogs.scientificamerican.com/illusion-chasers/the-boredom-paradox/

カナダのウォータールー大学で認知神経科学を研究しているAndriy Struk氏によると、典型的な高校生は平均して1日の36%を退屈しながら過ごしており、北米の青少年の91%は「退屈を経験している」と報告しているとのこと。そこで、退屈の正体を探るべく、Struk氏らの研究グループは大学生228人を集めて実験を行いました。


実験では、参加者は2種類の部屋に無作為に振り分けられました。1つ目の部屋には椅子、空の本棚、チョークのない黒板、ファイリングキャビネット、机があるだけでした。同じものは2つ目の部屋にもありましたが、この部屋にはさらに黒板用のチョークやGoogleの検索欄が表示されているPC、ブロック玩具で作られた車、ジグソーパズルのピース、白紙3枚、クレヨンのセットなどが配置されました。つまり、「ほとんど何もない部屋」と「退屈をまぎらわせる物が置かれた部屋」の2部屋が用意されたことになります。

両方の部屋に入った参加者は「椅子に座って何もせず、頭の中で考え事をして過ごすように」と伝えられ、その部屋で15分間過ごしました。また、部屋には事前の同意のもとでカメラが設置され、「寝たり、立ち歩いたり、部屋の中のもので暇をつぶそうとした参加者」は実験結果から除外されました。

そして、実験終了後に「どれだけ退屈だったか」を回答してもらったところ、ほとんど何もない1つ目の部屋に入った参加者より、PCなどがある2つ目の部屋に入った参加者の方が「退屈だった」と答える傾向が強かったとのことです。また、「何もせず過ごすように」というルールを破った違反者の割合も、1つ目の部屋では15%だったのに対し2つ目の部屋では25%と、退屈しのぎできるものがある部屋の方が高いという結果でした。


Struk氏らは、この結果には機会費用という概念が深く関わっていると考えています。機会費用とは、複数ある選択肢のうち、最大の利益を生む選択肢とそれ以外の選択肢との利益の差を表す概念です。

例えば、今回の実験では参加者全員が「何もせず過ごす」という行動を強いられましたが、1つ目の部屋にはそもそも暇をつぶせそうなものがないため、「部屋の中の物で暇をつぶす」という行動と「何もせずに過ごす」という行動の差は小さなものでした。

一方、PCやジグソーパズルなどが置かれた2つ目の部屋では、暇をつぶせそうなものが目の前にあったため、同じように何もせず過ごす場合でも、機会費用の損失が大きくなります。これが、1つ目の部屋に入った参加者より2つ目の部屋に入った参加者の方が「より強く退屈を意識した」原因だと、Struk氏らは推測しています。

ニューヨーク州立大学ダウンステート・メディカル・センターの脳科学者である スサナ・マルティネス=コンデ教授は、Struk氏らの実験結果について「退屈の正体は、『もしかすると自分はもっとワクワクした時間を過ごせたかもしれない』と気づいた時に感じる不安感なのです」と指摘しました。


また、今回のCOVID-19のパンデミックで退屈を感じる場合とそうでない場合の違いについては、「Struk氏の実験は、半ば隔離された状態で生活している私たちにはとりわけ興味深いものです。有効な選択肢の存在と退屈とが関係しているということは、娯楽施設やサービスが閉鎖されて選択肢が少ない場合は、屋外に魅力的な選択肢がたくさんある場合よりも退屈を感じずに済むことを意味しています」と述べました。

マルティネス=コンデ教授自身も、家族と共に2カ月以上に及ぶ自己隔離生活を余儀なくされていますが、当初予想したほど退屈を感じておらず、むしろ家族と一緒に新しい楽器や言語の習得、パン作りやガーデニングなどをして楽しく過ごしているそうです。

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in サイエンス, Posted by log1l_ks

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