在宅勤務は「富の不平等」を促進するという指摘
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策として、世界各国で「在宅勤務」が推奨されるようになっています。しかし、「在宅勤務によって富の不平等を加速されてしまう」という問題を、公共経済・都市計画の専門家であるケベック大学モントリオール校のジョルジュ・A・タンギー教授とウゴ・ラシャペル准教授が指摘しています。
Remote work worsens inequality by mostly helping high-income earners
https://theconversation.com/remote-work-worsens-inequality-by-mostly-helping-high-income-earners-136160
外出しなければヒトとヒトの接触を減らせるため、COVID-19対策の一環としてアメリカなどの国は「在宅勤務」を奨励しています。しかし、全ての仕事で在宅勤務な可能なわけではなく、アメリカ合衆国労働省労働統計局のデータによると、在宅勤務が可能な職種は全体の34%に過ぎません。
「在宅勤務が可能な仕事」は全体のうち34%に過ぎないとの調査結果 - GIGAZINE
タンギー教授らが指摘しているのは、「在宅勤務が可能な職種は高収入の職業に多い」という問題です。カナダのGeneral Social Surveyが行った2015年の調査によると、「普段から在宅勤務を行っている」と回答した人は、年収2万ドル(約210万円)以下の所得帯では5.6%である一方、年収12万ドル(1300万円)以上の所得帯では29.7%でした。
職種別の在宅勤務者の割合が以下。青色のグラフは当該職種が全職種に占める割合を表しており、赤色のグラフは当該職種の在宅勤務率を示しています。「Sales and service(販売・サービス)」や「Trades,transport and equipment operators(運送業・建築重機などのオペレーター)」などの低所得者が多い職種は在宅勤務率が低く、「Education,law,and social,community and government(教育、法律、政府関係)」「Natural and applied sciences and related(自然科学・応用化学関連)」「Management(経営)」などの高所得者が多い職種は在宅勤務率が高めです。
なお、それぞれの職種に属する労働者の年収の分布は以下の通り。
以上の調査結果から、タンギー教授らは、「COVID-19パンデミックによって、低所得者に過度な負担がかかっている」と主張しています。低所得者はCOVID-19感染リスクの低い在宅勤務ができない上に、飲食店従業員などは今回のパンデミックで解雇されるリスクも抱えています。一方、高所得者は在宅勤務によって通勤時間が短縮されてライフワークバランスも確保しやすく解雇されるリスクも低いため、タンギー教授らは「貧富の差」がさらに広がると予想しています。
また、タンギー教授らは在宅勤務の一般的なメリットについても言及しています。2011年にカナダで行われた(PDFファイル)調査によると、在宅勤務者は食事・衣服・移動の費用が少なくなる傾向があり、週2日の在宅勤務を行うと年間600ドル(約6万4000円)から3500ドル(約38万円)ほど節約可能だと推定されています。
COVID-19パンデミックの中で在宅勤務の需要は高まっており、ビデオ会議デバイスを販売するOwl Labsの調査によると、労働者の34%が「自宅勤務できるなら給与が5%下がっても喜んで受け入れる」と回答し、さらに24%は「10%下がっても受け入れる」と回答しているとのこと。
カナダ政府は「カナダ緊急対応給付金」などの低所得者に対する補償政策を講じており、一部のスーパーマーケットの労働組合は「時給を2ドル(約210円)増加させる」という交渉を行うなどの非在宅勤務者の待遇改善を訴えています。このように、タンギー教授らは「不平等を是正するためにより多くのことをすべき」と主張。その一環として、政府に対して在宅勤務での採用を増やすこと、そして在宅勤務に必要なPCやその他機器を提供すること、在宅勤務を実施する企業に助成金や経済的なインセンティブを与えることなどを提案しています。
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