ハードウェア

IBMのAI技術などを結集した完全自律運航船「メイフラワー自律船」とは?


船長も乗務員もいない完全自律運航船である「メイフラワー自律船(Mayflower Autonomous Ship)」が、海上実験の一環として2020年9月から大西洋を横断予定です。メイフラワー自律船に用いられている技術は、海運業界を大きく変え、海に関するデータの収集といった面でも発展が期待されています。

IBM News Room - Mayflower then and now
https://newsroom.ibm.com/then-and-now

Sea Trials Begin for Mayflower Autonomous Ship's 'AI Captain' - Mar 5, 2020
https://newsroom.ibm.com/2020-03-05-Sea-Trials-Begin-for-Mayflower-Autonomous-Ships-AI-Captain

メイフラワー自律船が一体どんな船なのか、運航イメージを以下のムービーから見ることができます。

Entering the Mind of the Mayflower - YouTube


海洋研究機関PromareとIBMが開発した完全自律運航船は、1620年にアメリカに寄港した初代メイフラワー号の航海400周年を記念して「メイフラワー自律船」と名付けられました。

メイフラワー自律船は、イギリスのプリマスからアメリカのプリマスまで、1620年にメイフラワー号がたどったルートとほぼ同じ航路で大西洋を横断する予定です。人間を1人も乗せないメイフラワー自律船の航海が成功すれば、メイフラワー自律船は大西洋を横断する初の大型完全自律運航船となり、商業における自律船開発の推進や、海洋研究の変革の一助にもなると期待されています。


2020年の時点で、自動操縦が可能な自動運航船は多く存在します。しかし、自動運航船の多くは臨機応変な対応ができず、操縦士の判断に大きく依存しているため、無人での運航は難しいとされています。メイフラワー自律船は、IBMによって開発されたAIと、サーバーを分散配置して大容量のデータを高速に処理するエッジコンピューティングシステムを利用することで、海上で感知、思考、意思決定を自動で行えるよう設計されています。

メイフラワー自律船の開発チームは約2年かけ、イギリスのプリマス・サウンド湾などで撮影した100万枚以上の画像を使用して、メイフラワー自律船のAIを学習させました。また、機械学習の処理要求を満たすため、CPUにIBM Power9を、GPUにNVIDIA V100 Tensor Coreを搭載したプラットフォーム、IBM Power AC922が採用されています。2020年3月の時点で、メイフラワー自律船に搭載されるAIは、船舶・ブイ・陸地・防波堤などの障害物を自動で検出および識別することができるようになっています。

メイフラワー自律船がエッジコンピューティング・システムを採用しているのは、航海中は情報量を多く転送できる広帯域のネットワークへの接続が難しいためです。メイフラワー自律船にはシングルボードコンピュータであるNVIDIA Jetson AGX Xavierが複数搭載されており、海上ではNVIDIA Jetson上でデータをローカルに処理することで、AIの意思決定のスピードを向上させ、船内のデータフローとストレージの量を削減しています。


「エッジコンピューティングは、海上での自律運航を可能にする非常に重要な技術です。メイフラワー自律船は、環境を感知し、状況を判断して素早く意思決定を行い、可能な限り迅速に行動する必要があります。しかもも、サイバー攻撃などからデータを保護しながら処理を行わなければなりません。IBMのエッジコンピューティング・ソリューションは、メイフラワー自律船のようなミッションクリティカルな処理をサポートするように設計されています」と、IBMのエッジコンピューティング担当副社長であり、最高技術責任者(CTO)でもあるロブ・ハイ氏は述べています。

メイフラワー自律船は、「イギリスのプリマスからアメリカのプリマスまで最短時間で到達する」という目標に沿って運航するだけでなく、IBMの意思決定自動化システム「Operational Decision Manager(ODM)」を利用して、海上における衝突の予防のための国際規則に関する条約(COLREGs条約)海上における人命の安全のための国際条約(SOLAS条約)にも従うよう設計されています。また、航海に大きな影響を与える天候についても、ウェザーカンパニーから天候の予測データを受信し、天候を考慮した運航が実施されるよう設計されています。

2020年3月の時点では、ポーランドでメイフラワー自律船本体の建造が最終段階に入っています。


また、2020年3月から2020年5月まで行われる海上試験では、メイフラワー自律船に搭載予定のAIを有人船に搭載して、レーダー・GPS・ナビゲーションシステムなどのデータ入力のテストが行われます。2020年4月以降には、画像処理、エッジコンピューティング、自律性のテストが行われる予定です。

この記事のタイトルとURLをコピーする

・関連記事
ヨットの形をした「海のドローン」が海上を航行する理由とは? - GIGAZINE

3Dプリンターを使って安価に自動航行可能な船をMITが開発、大量生産も可能に - GIGAZINE

無人で休むことなく黙々と軍事作戦を遂行できる海軍の全自動船をロールス・ロイスが開発中 - GIGAZINE

ドローンボート部隊の性能をアメリカ海軍が沿岸防衛でテスト - GIGAZINE

数か月間の無人自律航行が可能で潜水艦を探知する対潜無人艦「Sea Hunter」 - GIGAZINE

in ハードウェア,   動画, Posted by darkhorse_log

You can read the machine translated English article here.